2014年7月16日水曜日

甘美な追憶の果てに

いや〜、メチャメチャ驚嘆しました!『グランド・ブダペスト・ホテル』!!!
(あ、公式サイトへのリンク、BGMが鳴りますので御留意くださいませ)

この6月に封切られた映画、佐々木蔵之介さんが好きな私も、陣内孝則さんが好きな相方も、むしろ『超高速!参勤交代』が気になってたんですけど。御覧になった皆様のレビュウを拝読するに、『ジャズ大名』が好きな私も『大江戸捜査網』が好きな相方も、生憎、期待してたのとちょっと違うのかな〜?という心持ちに。

とは言え、なにせ5月から6月は、『ダウントン・アビー』にズップリ嵌まってましたから。最終回を堪能させて戴いた後も、“ドラマ”への熱が冷めやらず(“あまロス”ならぬ“ダウアビロス”?って、こんな略称ございませんがw)。

ジュリアン・フェローズ御大が描く濃厚緻密な正統派群像劇とは一転、思いっ切り軽佻浮薄なslapstickも美味しそう!って事で。

Sweet & Lovelyな映像のみならず、『イングリッシュ・ペイシェント』Ralph Fiennes(と言うか、むしろ『名前を言ってはいけないあの人』)や、『インデペンデンス・デイ』Jeff Goldblum(と言うか、むしろ『イアン・マルコム博士』)や、『プラトーン』Willem Dafoe(と言うか、むしろ『グリーン・ゴブリン』)等々、曲者揃いの俳優陣にも心惹かれ、レディースデーな水曜日を幸い、チャッカリ一人で観て参りました〜vvv

だが、しかし!案に相違して何よりも圧倒されたのは、語られた“ドラマ”そのものでした。以下、一応『ネタバレ御注意!』な改ページ挿入しますけど。

ストーリーの90%以上が、テーマと全く関係無かったじゃん!
なのに、エンドロールでこんなに涙が溢れてくるのは何故?!
監督/脚本/発案/製作のウェス・アンダーソン、スゴイ凄すぎる!!!

てな衝撃が、真っ先に浮かんだ感想だった旨、申し添えておきます。

《以下、『グランド・ブダペスト・ホテル』のネタバレ御注意!》

冒頭は、現代。愛らしい装幀に彩られた一冊の本を携え、一人の女学生が、寂れた墓地に“作家”の銅像を訪ねる場面から。

そして1985年、晩年を迎え、回想を収録中と思しき“作家”の書斎。更に若かりし“作家”が訪ねた1968年の、優美だけれど古色を隠せないグランド・ブダペスト・ホテル。

最後に、ホテルが栄誉の絶頂にあった1932年。精緻に造り込まれた、ドールハウスの如き華麗さの裡に、伝説のコンシェルジュが指揮する、究極のおもてなしを提供していた“物語”の舞台へと、誘われて行きます。

展開するのは、ひたすらに甘美でお洒落で、ミステリアスと言うよりユーモラス・スリリングと言うよりファンタジックな逃走劇。

時々「ぅひゃぁ」とか「ひぇ〜」とか「ひょえぇ〜」とかw
観客が疎らなのを良いことに(朝一番ゆえ、140人収容の劇場に女性ばかりが10名のみ)呟いちゃったシーンもありましたけど。

確かに、公式サイトで紹介されてる通り。
遺産相続を巡って連続殺人は起きるし、冤罪を晴らすべく脱獄計画やら秘密結社やら、挙げ句の果てに、銃を乱射しまくったりもしますけど。

Ralph FiennesとJeff Goldblumは、案の定、恐るべきマシンガントークw
「字幕じゃ追い着けんし、むしろ邪魔!画面に集中しよ&鑑賞中なのに、もうDiscが欲しくなってるよ(トホホ)」と、少々欲求不満になっちゃいましたけど。

Sweet & Lovelyな映像そのままに、“物語”がふんわり甘くひらりと優雅に幕を下ろし、若き日の“作家”が、“老富豪”と対峙する1968年の食卓へ。そして1985年の書斎で、回想を終えようとする“作家”。最後に、墓地に建てられた銅像へ女学生が鍵を献ずる現在まで。

数学的命題の完璧な証明のように、美しく回帰した時。

“ドラマ”が切々と訴えかけて来たのは、綺麗で可憐なものだけを思いっ切り詰め込んで、細心熟慮を以て巧緻細密に造り込まれた、ドールハウスの如き“物語”の中で、無言の通奏低音として至極控えめに、けれど確かに在り続けた、大切なものを蹂躙され消滅されてしまう事の、深く静かな哀しみ。

映画館へ向かう車中、例の『死刑執行人サンソン ― 国王ルイ十六世の首を刎ねた男』を、ちょうど読了した所為もあるのでしょうが……
(あ、この新書も素晴らしかった件は、改めて別稿で語らせて戴きたく)

思いっ切り軽佻浮薄なslapstickを、堪能した後。

エンドロールが照らす薄明の中、軽快なバラライカの音に包まれて、永遠に失われてしまった故地と友情への純粋な哀悼だけが、止め処なく湧いて来る群像劇……

なんて、滅多にあるもんじゃございません!“ドラマ”を語る事を志してらっしゃる全ての皆様に、是非ぜひお奨めしたい一作です!!!


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