100人に1人、ひょっとしたら3人、「その子」は生まれます。
ご両親にとって初めての、あるいは2人目、もしかしたら3人目の
お子さんかも知れません。ご家族は皆、無事の誕生を言祝ぎます。
6ヶ月後、9ヶ月後、12ヶ月後、ひょっとしたら18ヶ月後
ご両親は、違和感を抱き始めるかも知れません。
2年後、あるいは3年後、もしかしたら4年後
ご両親は、「その子」の詳しい検査、または定期的な観察、
もしくは療育を勧められるかも知れません。
そして自閉症スペクトラムという言葉を、知る事になります。
***
ご両親が抱く違和感は……
他の子ども達が、『あったかい』『やわらかい』『いいにおい』がする
「おかあさん」に抱かれたがるというのに……
「その子」は、『うーん!(あつい!)(いたい!)(くさい!)』と
「おかあさん」を押しのける事かも知れません。
他の子ども達が、「おかあさん」と“視線”を交わしながら、一緒に絵本を読んだり、手遊びをしたり、うららかな午後の散歩を楽しんでいるというのに……
「その子」は一人で、ひたすら絵本のページをめくりたがったり、ひとつ所でグルグル回りたがったり、初めての場所を怖がって泣き叫ぶ事かも知れません。
でも「その子」は……
過ぎるほどに鋭敏な五感が、小さな身体の内外から
【細かく大量に】受け取り続ける【感覚情報】で、
育ち始めたばかりの脳を、“占拠”されてしまうから
お腹がすいた時、ごはんを食べさせてくれたり、
服が汚れた時、着替えさせてくれたりする人を、
「おかあさん」と、呼ぶことになっている。
そんな“事実情報”を共有するだけで、精一杯なのです。
***
10年後、15年後、ひょっとしたら20年後
成長するにつれ「その子」自身も、違和感を抱き始めるかも知れません。
“事実情報”を共有するだけは、他の子ども達と仲良くできない事や、
「その子」が判らない“なにか”を、他の子ども達は共有している事に
30年後、あるいは40年後、もしかしたら50年後
社会人になった「その人」は、気付くかも知れません。
「その人」が判らない“なにか”を共有する時、
他の人達は密やかな“視線”を交わしている事に
“事実情報”の共有に齟齬が生じた時、「その人」が憤りを抑えられず、
他の人達と喧嘩になってしまうのは、“なにか”を共有できていないから
なのかも知れないと
***
けれど私は、「その子」あるいは「その人」の
多様性を、好奇心と敬意をもって、愛したい。
そして、あなたが……
他の人達と充分に共有できていない“なにか”は、【感覚情報】なのだと
共有できない理由は、鋭敏すぎる五感が、身体の内外から【細かく大量に】
受け取ってしまうゆえに、あなたの【感覚情報】が、他の人達の“なにか”と、
量も質も異なっているためだと
【感覚情報】で脳を“占拠”されているから【身体内外からの情報を絞り込み、
意味や行動にまとめあげるのがゆっくり】で、他の人達と“なにか”を共有する
ことに支障があるため、心の発達や脳の機能様式の違いが生じたのだと
好奇心と敬意と仁愛をもって、伝えたい。
でも、あなたの……
脳の機能様式の違いをこそ、好奇心と敬意をもって、私は言祝ぎたい。
多様性こそが、地球上のあらゆる生命を司る、万世普遍の原理だから
困難を背負って猶、社会に貢献したいと願う仁愛に、敬意を抱くから
***
前回の記事へ『一読しただけでは難しいです』とのご意見を戴いた(妄想深読みを文章化しただけ、でしたから。御指摘のとおりで、誠に恐縮)ことから、発想の基盤になっている『感覚の囚人・共感の達人』の主旨を、改稿してみました。
これまで直接・間接に邂逅できた、ASD当事者さん達への“頌詞”でもあります。
なお【】内は、綾屋 紗月 氏の『発達障害当事者研究 ゆっくりていねいにつながりたい』より借用した表現です。発達障碍当事者研究に御興味おありの皆様には、以下の過去記事もお時間許す範囲で御参照戴けますと幸甚。
>> 第1回『視覚の囚人』
>> 第2回『視覚の天才 (1)』
>> 第3回『視覚の天才 (2)』
>> 第4回『視覚の天才 (3)』
>> 第5回『感覚の囚人・共感の達人』
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