2015年10月31日土曜日

わるいのはママです!

朝、起きて台所へ行く。

昨晩洗って、水切り籠へ入れた食器の隙間から、
いつも使っている万能包丁の刃が、覗いている。

今日も、何の不安もなく、刃物を放置できる。
私は、そんなことにさえ幸せを感じる母親だ。

「幸せ自慢」も「修羅場話」も、本旨ではない。
ただ、『発達障害な僕たちから』のヒロさんから、
あなたは何者なのですか
と、ご質問戴いたのに、お応えしているだけのこと。
もう一つの記事で、青木先生が思わず唸って下さったらしい
「あの人すごいな」が読後の一言だった
という件さえ、自嘲の念は湧いても決して自慢には思わない。

殊に、青木先生へ心酔なさってらっしゃる皆様がたには、
どうか誤解なきよう、蛇足ながらお願い申し上げたい。

『すごい』母親なんて……。
当事者は無論のこと、支援者にとっても専門家にとっても、ウザいだけだ。

***

同級のお友達に何年か遅れて、ようやく二語文の発話が……と安堵したのも束の間。

『わるいのはママです!』

自閉圏の子にありがちな、言葉遣いだけは慇懃だが、内容は自分勝手としか言い様が無い娘の発言に、私は頭を抱えた。しかもご丁寧に、音声言語に先んじて覚えてしまったひらがな・カタカナで、おえかき帳にも同じ文言を書き殴っている。

保育園でも全く同じ調子で、先生やお友達に向かって『わるいのは〇〇です』なんて言ってたら……沸騰し煮詰まる妻を見かねた相方が、「今夜はオレが面倒みるし。アンタは一晩、頭冷やしといで」と、都内のビジネスホテルを予約してくれた。

でも、小学校へ入学して本格化した“自家製療育”に、まず音を上げたのは彼だった。

娘の苦手が、メタ認知の弱さに起因すると判断した私は、彼女が登校時に玄関を出た時から夕方帰宅するまでに経験したことを、毎日欠かさず、主語を意識させながら精細に口述させた。勿論、問題行動が見つかれば、原因と対策も緻密に考察・反省させる。

時に夕食を挟み、就寝まで続く冷徹酷薄な遣り取りが、我慢ならないと相方は訴えた。

今にしてみれば絶対音感を持つ彼も、人の声音を殆ど声紋レベルで聞き取れる娘と同じく、過ぎるほどに敏感な聴覚の持ち主なのだと判る。私は、抑鬱症状を呈し始めた夫をメンタルクリニックへ通院させ、自傷を警戒して刃物・打物の管理に神経を尖らせた。

先日ザックリ記した『遺伝子が邪魔をする』事態とは、具体的にはこういう状況だ。

***

ヒロさんから問われた『あなたは何者なのですか』という誰何に、
語順通りお応えすれば「わたしは悪者なのですよ」という返答になります。

私は、
家族のために必要とあらば、冷徹な結論も酷薄な判断も、躊躇無く実行に移せる
「わるいママ」そして「悪い妻」です。

だけどヒロさんは、
家族のために必要とあらば、冷徹な結論も酷薄な判断も、躊躇無く実行に移せる
「悪者」を、既に知っておられるはず。

まだ16歳だったヒロさんを、たった一人サポートセンター名古屋に預けて、ご家族と共に音信を絶ったあなたのお父様が、「わるいパパ」「悪い夫」の誹りを受けることさえ厭わなかったからこそ。今のあなたの“回復”が、実現できたのではありませんか?

私は、ヒロさんのお父様こそ「あの人すごいな!」と思っています。

***

『発達障害な僕たちから』サポートセンター名古屋に、支援の依頼を寄せる親御さんは押し並べて、優しさにあふれた「良い母」「良い父」でいらっしゃる。だからこそ、感覚や認知の凸凹ゆえに、疎外感に苛まれているお子さんの苦しみで、ご自身も押し潰されそうな日々を数えながら、なかなか動くことが出来ない。

優しさにあふれた「良い母」「良い父」なればこそ、
親御さん自身は、お子さんのメンターにはなれない。

冷徹酷薄な「すごい親」になって、当事者であるお子さんからウザがられるなど、到底「我慢ならない」その優しさも、『遺伝子が邪魔をする』事態の一部。だからこそ、家族のために必要とあらば、冷徹な結論も酷薄な判断も躊躇無く実行に移す「覚悟」を、サポートセンター名古屋に“代行”して戴いても良いのです。

優しさにあふれた「良い母」「良い父」にとって、大切なのはヘルプを出すこと。
そして、自分一人で何から何までやろうなんて考えないことです。


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