そう知ったのは、昨年2月。何年か前に娘の所望で買った『決定版 お茶大図鑑』を開き、工藤佳治先生が監修なさった中国茶の章を、ぼんやり眺めていた時だ。
「香港で人気の高いお茶」
その明瞭な一文に、心惹かれた。続く解説に、聯想が羽ばたき始める。「透明感のある上品な甘さ」「さっぱりとした味わい」「ストレス解消や鎮熱作用」……
「六大茶類」の一つとされながら、主な産地は福建省に限られ、生産量も少ないという白茶。代表的な銘茶に挙げられる一芯一葉摘みの「白毫銀針」より格落ちの、一芯二葉ないし一芯三葉(本来は「寿眉」だが「白牡丹」と銘されることも)で作られるが、揉捻を行わないため茶葉そのままの姿で出荷され、細かく砕けやすい。
市場に出回る量が少なく、扱いに注意が要るのに高くは売れないゆえか、行き付けの茶荘では見掛けたことが無かった。しかし、彼方此方とネットの情報を検索してみると、香港人達が日常愛飲している様が、髣髴として空想を刺激する。
彼の街に住まう人々にとって、至極ありふれた“普段着のお茶”……その製造工程は、摘み取った茶葉を放置して萎れさせ、若干の発酵を促した後、乾燥させるだけで、中国茶としては異例と言って良いほど、簡素なもの。むしろ、ドクダミやゲンノショウコを生薬に仕立てる手順に近く、原初的な製茶法なのかと思わせる。
なのに、作られ始めたのは意外にも、1920年代の初頭。
そして大戦や革命の都度、生産を中断しながらも、香港で愛され続けている。
そう知った時、まるで“和了”に必要な全ての手牌が揃ったかのように、幾つもの場面を展開しながら、妄想の天空に出現した雲を衝く蜃気楼の如く、とある二次小説の構想が瞬く間に立ち上がった。
その楼閣が幻と消えぬうち、早う早う……と得体の知れぬ何かに急き立てられ、この1年程で書き綴った文章が、合算すれば9万2千余字の連作となっている。まとまった量の散文を書くのは、実のところ大学以来。自分の裡の何処にこれほどの“滾り”が潜んでいたのかと、我ながら呆気に取られるばかりだ。
然れど、そこに至れたのは勿論、物語世界・登場人物の拝借をご快諾下さった原典作者様と、ご愛顧下さっている読者のお嬢様がたが在ってこそ。
奇しくも作者様御用達の茶荘にて、実物の「白牡丹」との邂逅が叶った良縁と併せ深謝を捧げるべく、ブログ開設 50件目の本記事を謹んで啓上致します。
横濱中華街の中国茶専門店・悟空の「白牡丹」 白毫少なめで寿眉に近い感じですが、茶葉の色が誠に鮮やか! 綺麗な翡翠色は丁寧に製茶された証、だそうです。 ふんわり甘い香味と爽やかな喉越しが暑気払いに最適v |
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