2014年4月14日月曜日

皇帝の新しい服

「あるところに、虚栄心ばかりが強く、美しい衣装で着飾って、
 それを見せびらかす事にしか関心の無い、王様がおりました。

 ある日、二人組の詐欺師がやって来て、
 『今在る地位に不適任な者、あるいは、絶望的に愚かな者には
  見ることが出来ない布で、極上にして最高の衣装を仕立てます』
 と約束すると、王様は大喜びで、彼らを雇い入れました。

 二人組の言う不思議な布は、大臣達にも、当の王様にも、実は
 見えていなかったのですが、今在る地位に己が相応しくないと
 思われるのを怖れ、皆一様に、見える振りをしていたのです」

("The Emperor's New Clothes" From Wikipedia, the free encyclopediaより引用・筆者訳出)

デンマークの童話作家ハンス・クリスチャン・アンデルセンが、1837年4月7日に
出版した代表作 “Kejserens nye Klæder” は、直訳すれば『皇帝の新しい服』となる。

日本では『裸の王様』の題名で知られた寓話。仕立屋が王様に売り込んだのは、
『愚か者には見えない服』だと思っていたのだが。本来、主題となっているのは、
今在る地位に不適任な者には…見ることが出来ない』という設定の方らしい。
だとすれば、俄然、思い浮かぶのは……

先日の記事では『O嬢の物語』にもなぞらえた、STAP細胞論文を巡る“騒動”。

『虚栄心ばかりが強く、美しい衣装で着飾って、それを見せびらかす事にしか』
関心を示さず、果たすべき務めを怠ったために『今在る地位に相応しくない』と
断罪される『絶望的に愚かな』王様からは、“もう一人のO嬢”を連想してしまう。

それでは『今在る地位に不適任な者、あるいは絶望的に愚かな者には見えない』
という、摩訶不思議な、しかし、実は存在していなかった“布”が、STAP細胞の
実態、という事になってしまうのだろうか?

いえいえ。ここからが、寓話では片付けられない、自然科学の醍醐味なのです。

今月1日に行われた、理化学研究所の記者会見に対して、iPS細胞研究所所長の
Y先生がコメントなさったとおり。『STAP現象』については再現実験の結論が
出ていない現状、実在するのか否かは、まさしく“神のみぞ知る真実”だ。

とは言え、香港中文大学のL教授がなさった判断も、また、一つの正解だったり。

『STAP現象』がホンモノだったとしても、率直に言って「へぇ。意外と簡単に、
“万能細胞”を誘導出来る方法も、あったんだ〜」程度のモノなんです、実は。

なので合理的な香港人が『これ以上実験を続けるのは人手と研究資金の無駄』と、
行き掛かり上、検証実験を行わざるを得なくなった理化学研究所の動向も鑑み、
ご自身の研究に専心なさる事を決断したのは、個人的に超絶納得だった。

でも、気の毒な王様を騙した“二人組の詐欺師”は、“もう一人のO嬢”を指導した
V教授とS副センター長なんでしょ? ちょうど、二人だし……と思われちゃう
のでしょうね。不幸な偶然に過ぎないのですが、ムチャクチャ判りやすい構図だし。

これまた、自然科学に馴染みが薄い方には、ご理解戴き難いのでしょうけれど。
実は、実験研究こそが“二人組の詐欺師”。すなわち、実験操作と結果考察が、
気の毒な王様こと“もう一人のO嬢”を、陥れた二人組なのだと私は拝察している。

“もう一人のO嬢”は、少なくとも一回は、“万能細胞”を誘導出来た!と考察可能な
結果を、確かに得た事があるのだろう。ただし、決定的にメタ認知能が欠けている
彼女には、どの実験操作が“万能細胞”誘導に重要なのか、“コツ”を見抜けなかった。
あるいは、結果考察の段階で、自己突っ込みが甘かったために、普遍性・再現性を
客観的に担保出来ていない、という可能性もある。

で、実を言うと、自身でさえ未だに、再現が覚束無い。それなのに……

V教授には、出来たって報告して、褒められちゃったし。博士号欲しいし。
S副センター長に今更、出来ません、って言ったら、クビになっちゃうし。

スミマセン。直前の8行分は、私の妄想です。
でも、当たらずとも遠からず、だと自負はしている。
“気の毒な王様”は永遠に認めないだろう、とも誠に遺憾ながら思っているが。

200回以上作製云々と口走った瞬間、彼女が認知を拒む
哀しい事実が、全て、見えてしまったような気がした。

美容師さんは、今までにお客様何人カットしたか数えないし、
漫画家さんは、今までに原稿何ページ描いたか数えない、ですよね?

実験研究者だって、その実験操作が、妥当な結果考察で、普遍性・再現性を
客観的に担保出来ているホンモノなら、今までに何回…なんて数えません。

200回でも、2000回でも。自分が望んだとおりに、
再現して欲しかったんでしょうね……彼女は。

皮肉でも、揶揄でもなく、心底、痛ましいほどに、気の毒な“王様”だと思う。
どんなに望んでも、彼女を雇ってくれる、まともな研究機関は皆無だろうから。



さて、この後の物語で、唯一ハッキリしている事は、皆様も御存知のとおり。

「遂に衣装が完成した旨を、二人組の詐欺師が恭しく奏上すると、
 王様はそれを身に着け、臣民達の前を、麗々しく行進しました。

 街の大人達は、自分が愚か者だとは思われたくなかったので、
 王様ご自慢の衣装が見える振りをし、追従しました。

 けれど群衆の中で、一人の子供が「王様は、何も着てないよ!」
 と、思わず叫んでしまいました。すると、その叫びは、次第に
 観衆全員にまで広がって行き……

 王様は縮み上がり、心の裡では、臣民達が口々に叫んでいる事こそ
 真実なのではと気付きながらも、ひたすら、行進を続けるのでした」

("The Emperor's New Clothes" From Wikipedia, the free encyclopediaより引用・筆者訳出)

『今在る地位に不適任な者、あるいは絶望的に愚かな者には見えない』
という摩訶不思議な衣装の正体は、浅薄な虚栄心、との寓意は、恐らく
永遠に、“真実”であり続けるのだろう。


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