先月は、昨年来、愛読させて戴いている『書生葛木信二郎の日常 —黒髭荘奇譚—』の第7集が発売され、やっぱり欣喜雀躍中でしたw
こちらの奇譚、主人公は小説家になる志を抱いて帝都に上って来た、京都帝大卒の書生。時は上野公園で東京府主催の博覧会が度々催され、浅草には通称「十二階」こと凌雲閣が聳える、大正の御代です。
年端も行かぬ13歳ながら、良く出来た頼りになる少女メイドとも、
下町商店街のメイド喫茶でバイト中な、探偵志望の女子高生とも、
一見、全く共通点は無いような……
メイドポジション&『服だけメイド』なキャラは登場しますけど。
信二郎自身は残念ながら(?)、メイド服は着用してくれませんしw
あ、申し遅れましたが、奇譚の主人公たる最重要属性は、小説家志望でも帝大卒の書生でもなく。妖怪を見知し妖気を感知する力、すなわち“見鬼”だったりします。
小説家志望とか書生とか見鬼とか……東京都西部の古い木造家屋にお住まいな民俗学専攻の大学生および彼のお祖父様を、僭越ながらウッカリ想起してしまう設定w
ですが個人的には、葛木のお祖母さまから中途半端に受け継いだ“常ならぬ力”そのものが、“奇譚の日常”の由縁って訳じゃあない、と思うのです。
何故なら信二郎は、自分の力が及ばぬ事を再々慨嘆しながらも、否応なく見えたり感じたりしてしまう妖異を、決して奇怪なるものと恐怖したり忌避したりはしないから。あくまでもヒトでありながら、人事の外に棲むモノ達を、在るが儘に受け容れ、維新開化が成って久しい世でも、共に幸福である事を何より優先する。
あやうい奇譚をも、ホンワカした日常に変えてしまう。
そんな底の知れない包容力こそ、シャーリー・メディスンにも嵐山歩鳥にも相通ずる、“奇譚の日常”の主人公・葛木信二郎の魅力!だと思うのです。
更に加えるべきは、描き手に溺愛されまくった挙げ句の、“やられキャラ”っぷりw
シャーリーも歩鳥も信二郎も、のび太くんも斯くやの不運に見舞われ続けてます。
そして物語の共通項は、過去と未来の邂逅ゆえに生まれた、稀有なるあたたかい日常を、終幕の後、愛惜すべき奇譚へと転ずるであろう、“破局”の予兆。
19世紀には珍しくなかった13歳のメイドと、20世紀を象徴する自立した女性。
商店街の過ぎ去った日々を、気儘な時系列で愛おしく懐旧する未だ来ぬ日々。
江戸の昔なら誰もが信じていた妖異と、維新開化の果てに変貌を遂げた東京。
折々の不運で主人公を散々翻弄しつつも、優しく包み込んでくれる幸福な、過去と未来が交錯する物語の裡に、来たるべきcatastrophe…女主人の結婚や、商店街の凋落や、大正関東地震による帝都壊滅…が然りげ無く、しかし揺るぎ無く示唆され続けているからこそ、彼らの日常は奇譚として一層の輝きを放つのだ、と思うのです。
さて、11年越しで第2巻が発売された『シャーリー』は言うに及ばず、第12巻・第98話を数える『それ町』でも、未だcatastropheは描かれていないのですが。『書生葛木信二郎の日常』がデビュウ作となります作者様に於かれては、サンデーGX10月号掲載の第47幕・11月号掲載予定の最終幕にて、果敢にも“奇譚の破局”に挑戦中!
その妙味の解題は、次回を乞うご期待!!! という次第で……
最終幕を拝読するまで、如何なる主旨で展開するのか?! 筆者にも皆目予想がつかないレビュウ連載第3回は、10月20日ごろ掲載予定です。
>>第1回『奇譚の日常』を読む
>>第3回『日常の偶然・必然の奇譚』を読む
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