2014年5月17日土曜日

階上と階下のドラマ

遂に日本でも、放映が始まりました『ダウントン・アビー』

って、唐突で恐縮ですが……実は、19世紀末〜20世紀初頭の英国、所謂、ヴィクトリア朝末期からエドワード朝にかけての風俗も、大の好物でございます。

アガサ・クリスティーの著作、あるいは『バジル氏の優雅な生活』や、『T.E.ロレンス』辺りが起源かと思われ……ですので、昨今のメイド・執事ブームとは一線を画す、年季が入っております(歳がバレますがw)。

とは言え“資料”と称し、『エマ ヴィクトリアンガイド』を皮切りに、結局、『エマ』全巻も大人買い。更に、TVアニメ版『黒執事』で考証協力なさってた、村上リコ氏の『図説 英国メイドの日常』『図説 英国執事 貴族をささえる執事の素顔』も、入手済みだったりw

そんな既存の背景知識に、ドラマ公式ページや、NHK公式コラムでも予習を重ね、準備万端で第1話「嵐の予感」を拝見しました〜vvv

稀に見る上質なドラマ、との前評判は、もちろん承知しておりましたし、リコさんの実況ツイートも拝読した上で、録画視聴致したのですけど……

予想を超える素晴らしさに、感嘆・感服の連続でした!!!

殊に、小説を志す、字書きの端くれとしては、精妙な脚本に萌えまくり。
動画で妄想する、映像記憶保持者としては、巧緻なカメラワークに滾りまくり。

林の如く立ち並んだ電信柱に支えられ、空を走る電線に乗って階上の“御家族”へ……
鉄路を疾駆する蒸気機関車に牽引され、地を走る列車に乗って階下の“使用人”へ……

波乱の“予兆”がもたらされる、という心憎いばかりの導入に一層期待が高まります!

《以下、第1話「嵐の予感」のネタバレ御注意!》

屋敷の中に入ったカメラは、キッチンメイドのデイジーへ視点を移動。お勤めを始めたばかりの彼女は、使用人の中でも最下位。なので、朝一番に起床し、他のメイドを起こしたり、調理用ストーブに火を起こしたり、大忙しです。

一般に、階上の各部屋で暖炉に火を入れて回るのは、ハウスメイド(アンナやグエンたち)の仕事なんですが。このお屋敷では、デイジーに担当させてる設定。

階下の“使用人”区画から、長い階段を上り、“御家族”が住まう階上へ……
彼女を追うシークエンスが、階級間に歴然たる格差がある事を雄弁に描出してます。

ハウスメイドが朝の掃除に勤しむ図書室へ、第一フットマンのトーマスが入って来たタイミングで、カメラの視点は滑らかに、彼へと移行。

メイド達が“午前の作業着”で、重いバケツを運んだり、調度を磨き立てたりしている中。既に正装を身に纏った彼が行うのは、“御家族”が前夜置いて行ったグラスを下げる、軽い仕事のみ。メイドとフットマンの間にも、同じフットマンであるトーマスとウィリアムの間にも、格差がある事を鮮やかに描写してます。

そして、鍵束で象徴される家政婦長と、銀器で表象される執事が、いよいよ登場!

女性使用人と男性使用人のトップですが、下級使用人であるメイドやフットマンが、first‐nameで呼ばれるのに対し、上級使用人である家政婦長・侍女や執事・従者は、Mrs.(未婚でも)もしくはMr. family nameと呼ばれたそうで。

話は飛びますけど、トーマスが従者(= ヴァレット)に昇格したがる件も、元軍人だったベイツ氏へ旦那様が、「来客時に限り第三フットマンに」という執事からの屈辱的な提案(事実上の解雇勧告)を、そのまま伝えるに忍びなかったのも。

Mr. family nameで呼ばれる、“名誉”が掛かっているからなんです。

単に賃金の問題だけじゃないのは、ベイツ氏が旦那様へ「私の給金から、もう一人、フットマンを雇う費用を、差し引いて下さっても」と提案してる件からも、よく判ります。1880年のデータですが、『図説 英国執事 貴族をささえる執事の素顔』に拠れば、従者の年給は30〜50ポンド。対して、下級フットマンは14〜20ポンドでしたから、実際、可能な対応でした(旦那様は断ってますが)。

でも最初に、迂闊な“越権行為”をしちゃったのって、実は、旦那様なんですよね……

男性使用人の人事裁量は、執事の権限。なのに、苦境に置かれた戦友の力になりたいが為、独断で従者の後任にベイツ氏を採用(申し送りは、一応してたようですが)。しかも再会を喜ぶ余り、“御家族”は立ち入るべきでない、階下の使用人ホールへ出向き、異例の歓迎をしてしまった訳で。

最も面目を潰されたのは、昇格を逸したトーマスではなく。独身の儘、生涯を“御家族”(= my family)へ捧げてきた執事のカーソン氏なのですよ! この禍根が、次回の展開へと繋がっていきそうな気配に、ひたすらニヨニヨしてます〜vvv

ベイツ氏と旦那様の友愛。
カーソン氏と“御家族”の親愛。
そして、トーマスとクロウボロー公爵の性愛。

どんな形であれ、階級を超えられる“愛情”など、存在し得ないのか……
と思いきや、持参金目当てだった筈の伯爵たる旦那様と、身分目当てだったアメリカ成金出身の奥様が、実はラブラブでホンワカさせて戴いた後の、見事な逆転劇!

私如きが感心するのも烏滸がましい事ですが。さすがリアルで爵位をお持ちな、ジュリアン・フェローズ御大、巧い……巧すぎる!!!

今年の春アニメは、『蟲師 続章』だけか〜とユルユルしてたんですけど。
久し振りに実写番組から、ガツガツ在庫補充出来そうな今期ですv


>>第2話レビュウ『貴族の威信・市民の矜恃』を読む

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