2014年5月28日水曜日

肩こりの顛末

今年4月の末日。自ら定めた小説の公開期日を遵守すべく。終日、原稿作業に熱中していた私の左肩を、未だ嘗て経験した事の無い、激しい凝りが襲った。

と書きますと、エライ大袈裟やなぁ、と呆れられてしまいそうですけど。
ホンマなんですわ、これが。

ガンガン書き進めてる内は、勿論、両手でタイピングしますけど。脱稿が近付いて、ネチネチ推敲を繰り返してる段階に入ると、マウスを扱う右手は動かしても、左手の方は、稀にショートカットキーを押すとき以外、ジッと固まってるだけになり勝ち。

原稿に没頭すると、つい、姿勢が悪くなるのも手伝い(あ、“165 cm超え女子の宿命 (?)”脊椎側彎持ちなんです。軽症ですが)、左肩の血行が滞ってビリビリするほど凝るのは、毎度の事。

しかし今回の“凝り”は、どうも様子が違った。鈍くはあるが、痛い。強いて言えば、首を寝違えた時の痛みに似ている。だが、昼間中、左腕をほとんど動かさず、肩からぶら下げていただけ(……はい、家事は放り出してました。スミマセン)。

まさか自重で痛くなるなんて、『鋼の錬金術師』じゃあるまいし。機械鎧の左腕じゃないんだから……て、エドワード・エルリックのオートメイルは右腕ですがな!

などと頭の隅で、くだらないノリツッコミをしてみるも、気が紛れるわけはなく。

堪らず、合谷やら曲池やら、肩こりのツボを作業の合間に押しまくってみるが、一向に効かない。さすがに肩井や雲門は、“イタ気持ちいい”のだが、ジワジワ血行が改善していく、いつもの感覚が全然無い。

フェルビナク配合の湿布を貼って様子を見たが、一日・二日経っても、むしろ悪化の一途。殊に、左腕を動かさずにいるのが宜しくないようで、就寝中も鈍痛のため熟睡出来ない。抗炎症鎮痛剤が全く奏功しないというのは、やはり、尋常の肩こりではない事を、示唆している。

日頃、“ドクターG”(あ、総合診療科の女医さんです)と仕事している相方が、耳学問で「心筋梗塞の放散痛かもしれへんで」と脅す。彼は、黄金週間中でも暦どおりの勤務だったので、昼間にメールを寄越すようになった。

  『生きてますか?』
  『はい。左肩を絶えず動かしてればおk』

  『まだ生きてますか?』
  『小説公開して心残りが一つ減った。まぁ、肩こりやね』

とは言え、収縮期の血圧は若干高めながら、血中コレステロール値BMIは常に正常範囲内。喫煙習慣も無いし、情けないほどの下戸だから、動脈硬化の危険因子は殆ど無い。結論としても、幸い、心筋梗塞ではなかったのだが。

当初の予定を2日遅れで達成した後。いろいろ調べたり試したりした挙げ句、最も当て嵌まった症状は、通称“四十肩”。正式名称は“五十肩”である(泣)。

『認めたくないものだな、自分自身の……』という例の至言が、脳裏を過ぎる。

ぃや、シャア少佐の場合、認めたくないのは『若さゆえの過ち』で。自分のは『加齢ゆえの“五十肩”』てのが、堪らなく哀しいですけどw

“老眼”は、ママ友達が先だったせいか、ショックじゃなかってんけどねェ……
“五十肩”が早かったんは、背が高い=腕が長うて、その分重いせいやろか……

実は、昨年の11月下旬。書かせて戴いた二次創作小説の中で、五十肩に適用する漢方処方を、エピソードに織り込んでまして。

マフィアのファミリードクターを務める凄腕外科医・孔大夫が、とある漢方薬局で、捜査官・毛宜洪と鉢合わせた場面。あ、舞台は1930年代の香港です。この辺の設定がアレで、誠に恐縮ですが。

***

裏通りに在りながら、そこそこ広い間口を構えた葯舗に入ると、俺は記入して来た注文票を、店番の若い男に渡した。

「……ただいま、在庫を確かめさせますので」

暫しお待ちを、と断り、調合途中の薬研を一旦置いて、店員は薬種庫へ向かう。石敷きの廊下を小走りに去って行く足音が、少しずつ遠退くのを聴いていると、背後に置かれた棕櫚鉢の葉陰から、突然、快活な声が掛かった。

「奇遇ですなぁ、孔大夫」

俺は動ずる事もなく、身体は薬種棚の方へ向けたまま、首を僅かに捻って右肩越しに応じる。

「毛先生がこの店にいらっしゃるとは。いよいよ……五十肩ですか?」

薬研の中身を素早く見て取り、処方を言い当てると、苦笑の色を帯びた声音が、棕櫚の葉を微かに揺らしながら返って来た。

「いえいえ、今日は女房の遣いです」
「ハハハ……それは失敬しました」

***

今思えば、これが『啓示のような何か』だったんでございましょうねぇ……

にしても、右利きなのに、何故、左肩?と不思議だったけれど。考えてみれば、細かい手技を右手で行うため、物を保持したり、支えたり、抱えたりしていたのは、いつも左の腕だった。小はサンプルチューブから、大は、有機溶媒の一斗缶やら、硝子のシャーレがギッシリ詰まった籠やら。

昔、拙宅に居た“うつくしきもの”にしても、3歳頃まで左腕一本で抱えて、走り回ってたような気が(確認したら、当時の娘は体重なんと14 kg!)
……なるほど、左肩から“ガタが来る”のも、誠に道理だ。

筋肉は、鍛える事も可能だが。腱や靱帯、椎間板といった、関節周りの軟部組織・線維軟骨は、蓄積した負荷に応じ、加齢と共に機能が落ちていく。あ、コラーゲンとかグルコサミン・コンドロイチンとか、経口サプリは気休めみたいなもんですので。

頑健な星野仙一監督でも、それは免れ得ない事だった。

敬愛する監督の、一日も早いご快癒をお祈りしつつ。就寝時の“肩枕”で、ようやく痛みが引いた私は、手始めにラジオ体操でも、と考えている。


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