2015年5月8日金曜日

前略、担当編集者さま【追補】

はじめまして、ヒルマと申します。
御多用の最中、素性の知れぬ部外者が啓上した記事を、
御笑覧下さいまして誠にありがとうございます。

私は、当事者でも支援者でも専門家でもなく。
学生の頃からヒトの脳の働きに興味があって、
趣味として勉強してきただけの「野次馬」に過ぎません。

自閉症スペクトラム(Autistic Spectrum Disorder(s)、略称:ASD)についての私見は、拙文『好奇心と敬意と仁愛と』をご参照戴けますと幸甚です。

全くの無関係にも拘わらず、たいへん差し出がましい申し様ではございますが。
一歩離れた所におります者の「傍目八目」が、担当者さまのお役に立てることもあろうかと、お邪魔いたしました次第です。

まずは、NPO法人青少年生活就労自立サポートセンター名古屋青木美久先生へ、書籍出版をご提案下さった事、そして、長期に渉り原稿を辛抱強くお待ち下さっている事に、心より感謝申し上げます。

サポートセンターのブログ『発達障害な僕たちから』にて、青木先生が綴っておられる記事を拝読したところ、再び筆が滞ってらっしゃるご様子。

無論、締切が守れない最大の理由は、信じ難い程たくさんの事案を抱え、日夜ご自身が休息なさる時間さえ惜しみ、粘り強く解決へ導こうと努めておられる、不断のご多忙にあるのですが。

連休中、原稿に専念すべく『山籠り』しても、執筆が遅々として捗らない原因は、青木先生ご自身の“特性”を考慮する必要があると、僭越ながら拝察しております。

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サポートセンターの責任者である青木先生へ、担当編集者として接しておられる限りでは、思いも寄らぬ事かと存じますが。

発達障碍当事者でもある青木先生は、他者の【感覚情報】を、過ぎるほどに鋭敏な五感を介し、非言語的な“事実情報”として精細緻密に読み取れる一方、身体の内外から【細かく大量に】受け取り続けるご自身の【感覚情報】を、【絞り込み、意味や行動にまとめあげるのがゆっくり】なのだと考えられます。

つまり定型多数派とは逆に、ご自身の【感覚情報】すなわち「感じる事・思う所」こそ、むしろ「まとまらない・客観できない」という“特性”があるため、『内容は決められていて、それに沿って原稿を書いていけば良いだけ』なのに、『現実問題、原稿が書けていません』と難儀なさっておられるのではないでしょうか。

自分の【感覚情報】を総体的に把握できない“特性”は、売り上げ数でしか成果を実感出来ないご様子にも顕れています。

『今まで100人を越える人達の回復に手を貸してきたこと』、殊に予後が非常に難しかったヒロさんの目覚ましい社会適応は、定型多数派なら溢れんばかりの喜びと達成感に満たされる『素晴らしく嬉しいこと』であるはず。

しかし、“事実情報”として認知することは出来ても【感覚情報】として『実感がない』ゆえに、数字にこだわってしまうのだと思います。

然りながら、青木先生ご自身の“難儀”こそが、“強み”なのだと私は考えます。

名言に倣えば「当事者の・当事者による・当事者のための」支援を、果敢に実践かつ地道に実績を積んで来た事実が、サポートセンター名古屋の“特性”であり“強み”なのだと、私は思います。

率直に言えば定型多数派の“上から目線”を、当事者の皆さんに非言語的な“事実情報”として察知させることで、『発達障害者です。みなさまのご理解を!!』と『首からプラカードでもぶら下げ』ているような、負の【感覚情報】を与えることなく。

支える者と支えられる者が対等な立場で、けれど心から信頼し合う“師匠と弟子”のように、正の【感覚情報】を共有しつつ。社会で生き抜ける“溜め”を着実に蓄えられることが、サポートセンター名古屋に『まず、望まれること』なのだと思います。

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青木先生はご提案を貴く思うあまり、『早い段階で増刷できて、1万部を売りきったら』と、ベストセラーを目指しておられますが。

過ぎるほどに強烈な責任感も、ご自身の【感覚情報】を客観できず、原稿が書けない状態に陥らせている一因と拝察。たとえ時間はかかっても、不登校や引きこもりを支援する全国・全世界の現場で、広く読み継がれる謂わば“バイブル”として、ロングセラーをこそ目指して戴きたいと、卒爾ながら願っております。

どうか担当編集者様におかれましても、書籍出版をご提案下さったご高見と、長きに渉り原稿をお待ち下さったご仁愛を以て、無事の発刊へお導き下さいますよう。心底より上梓のご成功を祈念申し上げております。

#【】内は、綾屋 紗月 氏『発達障害当事者研究 ゆっくりていねいにつながりたい』より借用した表現です。

《追記:文中で言及した『「当事者の・当事者による・当事者のための」支援』の妥当性については、京都大学・福井大学の共同研究グループから報告された『自閉スペクトラム症がある方々による、自閉スペクトラム症がある方々に対する共感』という研究結果でも支持されています》