2016年8月28日日曜日

「良いお母さん」と「悪い子」

記者会見の喧噪が大の苦手なので、一問一答の記事毎日新聞のサイトで拝読した限りですけれど……

高畑 淳子さんは、すごく「良いお母さん」なんだなぁと感じました。

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でも「良いお母さん」が「悪い子」の『危うさ』を周到に俯瞰なさって用意することは、極めて難しい。「悪い子」がやらかす「悪いこと」には「悪いお母さん」でないと、布石を置けないからです。

自分の子に潜在する『危うさ』を直感した時、「良いお母さん」はご自身が持ち合わせぬ『危うさ』を怖れ忌避するゆえに、他人様に迷惑をかけぬよう我が子を成功へ導けるよう、「悪いこと」を禁じ「良いこと」を努めるべきとお子さんへ教諭なさいますが。

「悪いお母さん」は、我が子を「悪い子」にさせぬよう、むしろ失敗を体験させることを覚悟します。『危うさ』が招く失敗の怖さを自身に体感させておかなければ、我が子は『危うさ』を他人様へも向けかねない、という先の手まで深読みが出来るからです。

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先日の記者会見で漏らした『育て方が悪かったのだ』という感慨について、巷間では様々な意見があるようですけれど、私はお言葉どおり「お母さん」としてのお気持ちを受け止めたいと考えています。

何年か前、彼女の日常を取材したテレビ番組でお見かけした限りですが……

高畑 淳子さんは、すごく「頑張ってるお母さん」なんだなぁと思いました。

取り分け印象的だったのは、美容院で髪を染める待ち時間さえ惜しんで(人気女優でありながら、ご近所のありふれた美容院で整髪なさってるのも意想外でした)、頭にタオルを巻いたままご自宅へ駆け戻り、家事を懸命に片付けていらしたエピソードです。

そして、すごく「賢明なお母さん」なんだなぁとも思いました。

大河ドラマでご活躍中のコミカルな演技からも、聡明なお人柄は伝わって来るのですが。不規則で多忙なお仕事の一方、ご家族の日常を支える家事でも、他人様に迷惑をかけぬよう我が子を成功へ導けるよう、心を配り工夫を凝らして努めておられました。

にも関わらず、『育て方が悪かったのだ』と悔悟を募らせる結果を招いてしまった所以は、何処に在ったのでしょうか?

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語弊を懼れず端的に申し上げれば、「良いお母さん」が「悪い子」を授かった偶然。

更に言葉を補えば、「良いお母さん」には、「悪い子」が「悪いこと」をやらかしてしまう『危うさ』を看破することがすごく難しいのに、他人様に迷惑をかけぬよう我が子を成功へ導けるよう、ご自分お一人で全てを抱え込まざるを得なかった、必然です。

2016年8月5日金曜日

多様性発達者の就労支援

しばらく前、お子さんが大学への不登校をキッカケにひきこもりがちになってしまったご家族のお話を、直接伺う機会に恵まれました。

現状は概ね愉しく大学へ通えている拙宅の娘ですが。この十年来ネットを通じてお世話になっている「とある成人当事者ブロガー様」からも、『最も難関かつ大切なのは、就職活動と社会人になった最初の数年間』とのご助言を頂戴しておりますので、親の方は依然、就労支援へシフトした「予習」を絶賛継続中です。

定型発達から逸脱しつつも「うまくいっちゃう文化」を醸成することで、不登校・ひきこもり等の二次障害すなわち『発達障害的な行動パターン』の表出を回避し、「成長体験」を積めたPolymorphous Developments=多様性発達者 つまり一往の「育ち」が叶っている「うまくいっちゃった」ケースだとしても……

定型通りの「みんな」なら「普通」に努力を積むことで、そこそこ上手に・まずまずの成功へ落着できる人生の岐路、すなわち就職が『最も難関』となってしまうのは別儀。

今や東大の数理科学研究科でさえキャリア支援室を設置各種セミナーを開催して、『問題解決のための情報収集力・対人コミュニケーション力・組織対応力』−−− 要するに数学を「得意」とする多様性発達者が抱えがちな「苦手」の克服 −−− を『transferable skill=様々な業界や職種に転用可能なスキル』と称し、学生・院生へ説くご時世です。

「得意を伸ばす」ことで知識・知能を磨くのは言わずもがな。「苦手を避け社会と呼応する知恵、たとえば信州大学医学部附属病院・子どものこころ診療部の本田 秀夫 先生が提唱なさっている『新キャリア教育』のような支援で、多様性発達者自身が「生き方」へ配慮できるようになる工夫を凝らすことこそ、就労の要と私は考えています。

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あくまで見聞できた範囲の個人的な心象に過ぎませんが、初等〜中等教育まで概ね良好な登校状況だったものの、大学進学以降の「大人としての行動パターン」を要求される環境で、不適応もしくは過剰適応を表出させてしまう当事者さんには、Hyperlexia=過読症を想起させる特性を示す方が相当な割合でいらっしゃるように拝察しています。

ウィキペディアの解説を借用すれば、文字や数字の『早熟な読解能力』を示す一方、『発話の習得は丸暗記と反復』であるがゆえに『実用的な会話の習得は遅い』。そして『具体例や試行錯誤から習得するのが苦手』なゆえに母語の文法に加えて『ソーシャルスキルの発達で遅れを取り』がちな上、そもそも『子供同士で遊ぶことにあまり興味を示さない』のは昔も今も「勉強がよく出来る」児童・生徒に散見される一群ですが……

定型通りの「みんな」なら「普通」の日常を送るだけで自然とできるようになる習得、つまり経験を通して習い覚えることが、むしろ逐一『難関』となる広汎性発達障害

ゆえに「みんな」なら「普通」に日常の経験を通して習い覚えて来た、社会と呼応する知恵=transferable skill が採否の決め手となる就労こそ、『最も難関』となるのは理の当然。支える側は、そのうち自然とできるようになる筈という認識を改め、障碍へ配慮する工夫を反復・率先して当事者さんへ言語化・行動化し続ける要があるのでしょう。

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娘に付けるべき診断が、発語・発話の顕著な遅れを主訴とする高機能自閉症になるか、過読症を主訴とする広汎性発達障害になるかという議論は、さておいて。要は前倒しで時間をかけて用意するのが肝と心得、知恵習得という「苦手を避け」就労支援へシフトした「予習」は、子の方も大学生活に馴致できた2回生を以て鋭意始動中。

「大人としての行動パターン」に『問題解決のための情報収集力・対人コミュニケーション力・組織対応力』が必須である旨は、1回生の時にやらかした「失敗体験」を好機と捉えて言語化して来たので、今年は徐々に行動化……手始めにクラス担任への進路相談を誘導したところ、担任教授は快く暫定メンターを引き受けて下さった模様です。

通常は2回生の冬に確定するゼミの指導教授との関係性こそ、就労に漕ぎ着ける第一の『難関』なのですが、まずは担任教授へ繋がることで「予習」すなわち前倒しの反復をさせる目論見。早速、実習科目で出された課題へのご助力を、娘自らお願いに伺えたらしく……布石の順調な奏功に、ありがたく安堵の一息をつかせて戴きました次第。

そして担任教授への進路相談を言質に取った国家資格取得の夏季集中講座にも、意欲を持って取り組めています。なにより幼い頃から慣れ親しんだ場の「中の人」になれる(かもしれない)資格を取るために必修だからなのですが、他人様へ事前に受講を宣言した見栄や体裁は、「配慮と我慢」のタガを緩めぬ適度な緊張感になってくれています。

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とは言え無論、世間様との齟齬が全く無いというワケではなく。通うべき所へ通い続けられる「配慮と我慢」の自発を最優先に据えていますから、定型通りの「みんな」なら「普通」に送っている日常のあれこれを、娘と熟慮・協議した上で省いたり諦めたり先送りしたり……当事者と支える家族双方の許容量を鑑みつつ取捨選択しています。

例えば大学生の大多数が就労への「予習」として体験するアルバイトやインターンシップは、経験を通して習い覚えることが『難関』になってしまうタイプの多様性発達者からすれば、むしろ鬼門。所属学部やサークルなど安定した人脈を伝手に、社会と呼応する知恵を構造的・弁証的に理解・体得していく方が相応だと考えています。

しかし入学当初の娘は友人達に影響され、バイトやインターンに興味津々。その意気や良しと奨励しつつも、十中八九、採用戴けそうにないバイト募集でエントリー・書類選考・面接と一通りの手続の後、当人は好感触を得たつもりなのに不採用だった旨を正直に報告できなかった件まで、親の方は委細承知で敢えての「失敗体験」を仕掛け、「苦手を避け」「配慮と我慢」することの必要を弁証する策を講じたりもしました。

「得意を伸ばす」ことで知識・知能を磨けば、他人様から頂戴する好評価によって当事者の人生への信頼が養われる一方、「苦手」の克服を一層避けがちになるのは自然な人情かもしません。けれど「みんな」の「普通」を凌駕超越した知性であっても、社会と呼応する知恵を欠いたままでは、人工の知識・知能に取って代わられる日が訪れようとしている世情を、「育ち」を支えるご家族に是非ご考慮戴きたいと私は願っています。

【補記】多様性発達者 Polymorphous Developments とは……
定型発達からの逸脱を呈しつつも、発達障害的な行動を表出させない「合理的配慮」を自ら体得できた症例です。信州大学医学部付属病院 子どものこころ診療部本田 秀夫 先生が仰る、「非障害自閉症スペクトラム」に想を得ていますが、拙文における「多様性発達者」の定義は、専門医の診断も専門家の療育指導も、その有無を問いません。