2018年4月25日水曜日

カサンドラの呪縛

「普通」ならこの月齢/年齢では自然とこんなことが出来るようになる、という目安に対し、遅発していることと早発していることの凸凹が極端に大きい……語弊を懼れず端的に言えば、それが「発達障害の徴候」です。

そして、「普通」なら大人になるまでに自然と出来るようになることが、何歳になっても出来ないまま看過され、思春期以後の学校生活への不適応や、成人しても社会参加できない状況へ陥ってしまった……端的に言えば、それが「発達障害の二次障害」です。

しかし、二次障害を契機に全く意想外だった発達障害の診断が我が子へ下されても、それは金輪際「伸びない」と断定する烙印ではありません。当事者の成長を心から「待ち設ける」ご家族の支えがあれば、ゆっくりですが確実に「伸び行く」可能性を潜在させていますが、いかがしますか?と未来の選択を問うている informed consent なのです。

つまり、親御さんに「待てない」ご事情があり、療育されなかったお子さんが「伸びない」まま二次障害へ陥ったとしても、「普通」のことが自然と出来るようにはなれない「障害」なのだから、我が子を「伸ばす」ため適切な支援をしようという親御さんの「学び」が叶えば、障害の受容と支援への信頼に基づいた当事者本位の「合理的配慮」で過去への後悔を払拭し、二次障害の回復と社会への適応という未来へ進めるはず……

すなわち、お子さんの成長を心から「待ち設ける」ためには、先ず親御さんの「学び」を妨げている「待てない」ご事情へ向き合うことが、どうしても不可欠になります。

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とは言え、親御さん方が「待てない」ご事情は、ご家庭ごとに千差万別。
複雑に絡み合った事情をあまり仔細に考察させて戴くと「あぁ、アソコのお宅か」と察しが付いてしまうほど特異性が高いため、「親の都合」を個別に解題していくだけでは恐らく混迷が深まるばかり。要諦を見極めるのは却って難しくなってしまうでしょう。

多数のケースで共通している因子(主因である可能性が高い事象)を抽出し、そこへ重点的に対処する方が奏功を期待できるのですが、「子の都合」ゆえの「二次障害」すなわち成人しても社会参加できない「ひきこもり」の実態把握さえ端緒に付いたばかり。親御さんの「学び」を妨げる「親の都合」の調査は、いっそう立ち後れているのが現状です。

さりながら、手がかりが全く無いわけではありません。第一のヒントは、幾度か拙文が引用の栄誉を賜っておりますブログ「発達障害な僕たちから」にありました。この春から、めでたく訪問支援スタッフとして就任なさった俊介さんの記事に拠れば、
それで他の人と会ってみて わかったことは、
このサポートセンターで支援を受けている人の ほとんどが
アスペルガーと診断されている人だ ということです。
間違っていたら、スタッフの人が訂正してくれます。
青木さんに聞いたんですけれど
LDとの診断を受けて支援をした人は20年間で1人だったそうです。
ADHDとの診断も わずからしいです。
問題の多くはアスペルガーの人たちなんだ ということでしょうか。 
との傾向が見られるそうです。サポートセンター名古屋は殊に重篤な二次障害を対象として、20年に渉根源的かつ先鋭的なサポートを実践してきた発達障害支援のパイオニア。やはり「親の都合」の方も取り分け深刻なケースを多数ご経験と拝察されますが、当事者は『ほとんどがアスペルガー』との分析こそ第一の重要な手がかりとなります。

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第二のヒントは、ネット上でお母様がたが吐露なさっておられる率直なご真情です。

前回の拙ブログでは、二次障害以降の『親の学び』が簡単には実現し難い理由として、親御さんが「こういう場合は、こうするもの」という「正論」を頑なに奉じておられる信念と、「障害」と「人格」を混同しがちで我が子に対する「不憫な子だ」という卑下や「厄介な子だ」という厭悪を拭い去れない葛藤を挙げました。

けれどもう少し広くご家庭の人間関係を俯瞰すると、親御さんの強固な信念と執拗な葛藤の背景には、発達障害と診断されたお子さんとは別の成人家族との間に、親御さんご自身が習い性としてきた「正論」の通用しない差異をめぐる不和や対立を、必ずと申し上げてよいほど先行・併存させてきた経緯が窺えるのです。

重篤な二次障害の当事者は『ほとんどがアスペルガー』という分析。
そして差異をめぐる不和や対立先行していた経緯。

二つのヒントを総合すれば、実はお子さんが二次障害へ到るずっと以前から、養育を主導してきた親御さん(多くの場合はお子さんの母親)が、未診断ながらアスペルガー症候群もしくは高機能な自閉圏の特性を呈する一等親(多くの場合はお子さんの父親)あるいは二等親血縁者お子さんの祖父母のいずれか)との継続的なコミュニケーションの不全に疲弊・消耗しており、いわゆる「カサンドラ情動剥奪障害」に陥っている可能性が強く示唆されます。

ウィキペディアに引用されている解説に拠れば、
カサンドラ情動剥奪障害(-じょうどうはくだつしょうがい, Cassandra Affective Deprivation Disorder)とは、アスペルガー症候群の夫または妻(あるいはパートナー)と情緒的な相互関係が築けないために配偶者やパートナーに生じる、身体的・精神的症状を表す言葉である。アスペルガー症候群の伴侶を持った配偶者は、コミュニケーションがうまくいかず、わかってもらえないことから自信を失ってしまう。また、世間的には問題なく見えるアスペルガーの伴侶への不満を口にしても、人々から信じてもらえない。その葛藤から精神的、身体的苦痛が生じるという仮説である。
と、主に夫婦間の不和から生ずる状態として定義されていますが、後述には
カサンドラ症候群は妻だけでなく、家族、友人、会社の同僚にも起こるとされている。
との引用もあり、発達障害と診断されたお子さんの二等親血縁者祖父母のいずれか)自閉圏の情緒的特性を呈していた結果、近しく交わらねばならなかった親御さん(多くの場合はお子さんの母親)「進行中の心的外傷体験」へ陥るケースも大いに考えられるのです。

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「待てない」親御さんの抱える「親の都合」が全て「カサンドラ情動剥奪障害」だ、と断ずるつもりは無論ございません。けれど相当数のケースでは、お子さんのゆっくりですが確実な成長の萌芽を「待てない」ご事情を静観させて戴くうちに、我が子が呈する自閉圏の情緒的特性や疎外感に起因する認知の歪みについて「学ぶ」どころか、不信感・被害感を我慢できず攻撃的にしか反応できない「親の障害」が垣間見えて来ます。

次回は引き続き、子の養育を主導してきた親御さんが「カサンドラ」状態へ到っていたゆえの「待てない」ご事情について、より具体的な解題を試みていきたいと思います。

>>後篇『カサンドラの孤立』へ続く

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