2014年6月14日土曜日

凡愚の浅略・聖賢の無謀

>>第1話レビュウ『階上と階下のドラマ』を読む
>>第2話レビュウ『貴族の威信・市民の矜恃』を読む
>>第3話レビュウ『華麗なる婚活・隠然たる不穏』を読む
>>第4話レビュウ『変わる勇気・変わらぬ気概』を読む


第5話は再び、波瀾の気配に満ちて参りましたねv 『ダウントン・アビー』

第4話「移りゆく心」では、叙情溢れる物語の裡に“幸せの鍵”の見つけ方を、慈愛に満ちた眼差しで描いて下さった、ジュリアン・フェローズ御大

今回は階上でも階下でも(使用人の居室は屋根裏ですけどw)お屋敷の内でも外でも。固唾を呑んだり手に汗握ったり、美味しいエピソードの大盤振る舞いでした!

この雰囲気、いつかどこかで観たような?と思ってたんですけど……思い当たりました!『宮廷女官チャングムの誓い』のリズムを、なんとなく想起させるんです。

時代・文化の背景はまるっと違いますが。お約束の設定・ベタな展開を繰り出しつつ、豊富潤沢な“在庫”と縦横無尽に“語る力”で、万人を魅了する物語を描いている点が、正に相通ずる所。同じく、世界的なブームを巻き起こしてるのも納得です!

ただし『大長今』は、運命に翻弄されつつ、成長を遂げて行く一人の少女の身の上に、固唾を呑んだり手に汗握ったりの事件が起こりまくる一方、『Downton Abbey』は、あくまでも正統派群像劇。ゆえに“主人公”は、特定の一人に非ず。

敢えて言えば、お屋敷や所領内に暮らす人々全て……
グランサム伯爵家そのものが、“主人公”なんですよね。

各賞の選考では、伯爵家筆頭たる旦那様が主演男優・ご長女のメアリー様が主演女優として、ノミネートされてますけどw)

そんな群像劇の濃厚緻密な醍醐味が、取り分けギュギュッと凝縮された第5話。

シリーズ後半に入って猶、全く目が離せない物語に、当然、期待が高まります!

《以下、第5話「嫉妬の炎」のネタバレ御注意!》

ご令息であれば、幼少の内は家庭教師から学び、所定の年齢に達した所で、然るべきパブリックスクール(ほとんどの場合、父上の出身校)へ入学なさるのですが。

上流にお生まれのご令嬢には、社交界へデビュウして良縁を掴み、他家へ嫁入るか婿を取るかの他、この時代、進路選択の余地は無く。

従って、最も尊ばれたのは、魅力的な容姿と快活な性格。そして未来の女主人に相応しく、会食の席で歓談を盛り上げる才智が、肝要とされていました。貴族の“共通語”であるフランス語を始め、典礼・儀礼、所作やダンスを習わせるべく、家庭教師を雇ったり。“良妻賢母”教育は、母親である奥様が担っていらした訳ですが。

残念ながら、次女のイーディス嬢に於かれては、いずれの点でも自他共に、姉上には遙かに劣ると見做されており。

評価基準が一律であるがゆえ、尚更、妬ましさも募ったのですね。一方、艶やかな容貌と乗馬もこなす活発さ、明敏な機知に恵まれた長女のメアリー嬢も、挑発されればマシュー青年を蔑ろにしてまで、愚かしい賭けに応じてしまったり。

個人的に今回は、奥様に御同情申し上げちゃうエピソードが多かったですねぇ……
特に『若草物語』を引用なさった場面、完全に“ママ友モード”へ移行してましたw

奥様のお側近くで仕える、侍女のミセス・オブライエンは、当然、この辺りの機微を熟知。キッチンメイドのデイジーが抱えている“秘密”を手に入れようと、イーディス嬢を焚き付けるんですが……思い余ってオスマン帝国の大使宛てに、密告を図るとは!

村上リコ様も呟いておられる通り、メアリー嬢に関する『悪い噂』である内は、ご長女お一人の“個人的な”問題。奥様が腐心なさってたように、とにかく誰かと結婚させてしまえば一応の解決となり、大事には至りません。けれど、亡くなった人物の身分を鑑みれば、『悪い噂』が“公然の醜聞”に変じた場合……

グランサム伯爵家そのものが、大問題に巻き込まれてしまうのです!

ロンドンに噂を流した第一フットマンのトーマスも、イーディス嬢を唆したミセス・オブライエンも。まさか彼女が、物語の“主人公”を危うくする程、大胆な行動を取るとは、全く予想外だったでしょう(現状、手紙を書いた所ですけれど)。

もっとも喫煙仲間な「悪巧みコンビ」は、従者のベイツ氏を陥れるべく階下で仕組んだ一件でも、詰めの甘さを露呈してましたねw この程度の浅略であれば、賢明なメイド長・アンナさんと鷹揚なベイツ氏の良縁を取り結ぶ、ちょっぴりスパイスの利いたエピソード、だと思ってたんですが……

そう易々と事が運ばないのも、上質の群像劇が持つ妙味、ということで。

そんな不穏と不安と遣る瀬無さが募る劇中。梅雨の晴れ間を想わせる“清涼剤”となってくれたのが、三女のシビル嬢と先代伯爵夫人のヴァイオレット様でした〜vvv

ハウスメイドのグエンが密かに抱き続けている、転職志望を応援するためとは言え。本人に断り無く、秘書の求人へ応募して面接の段取りを付けちゃったり。父上である旦那様が甘いのに付け込んで、まんまと女子二人だけで遠出しちゃったり。

シビル嬢のなさりようは、貴族の令嬢にあるまじき無謀。ですが、純粋な善意から発する“犠牲の精神”の為す業ゆえか、これまでの所、大事には至らず。

温室育ちで、世間知らず。けれど、何が善なのかお判りになれば、勇敢に実行なさるご気性は、むしろ典型的ヴィクトリアンであるお祖母様の、ヴァイオレット様譲りであるように感じました。

シビル嬢とヴァイオレット様は、個人的にも“一押し”キャラですv

それにしても料理長のミセス・パットモアが、ひた隠しになさってた“秘密”は、全く気付きませんでしたよ!

料理長が、キッチンメイドをしょっちゅう怒鳴り付けてるのも。家政婦長との遣り取りでいわく言い難い緊張が漲るのも。奥様とディナーの献立を巡って揉めちゃうのも。ウッカリ落として猫が囓ったチキンをそのまま食卓へ供しちゃうのも。

全てお約束の設定で、作為を感じさせる所が一切ありませんでしたから……

至極当たり前に見えるベタな会話にも、劇的な展開へ繋がるさりげない伏線を、巧みに忍ばせる見事な手腕に、改めて感服。伏線が有ろうが無かろうが、全編手抜かり無く、きめ細やかに作り込まれたドラマだからこそ!の醍醐味です。

さてさて、第1シーズンも残すところ2話のみ。次回&最終回は、更に濃厚緻密な画面が期待されます。ジックリ・ガッツリ堪能させて戴きたいですね!


>>第6話レビュウ『世間の噂・家族の絆』を読む

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