2018年3月26日月曜日

伸びた子 と 待てた母

「へぇ〜『社員の7割以上が発達障害』なんだって!」

スマホでLINEをチェックしていた娘が、更に「携帯ゲームの会社か……」と呟いた。
その声にピンと来た私は、夕食の準備をするためクックパッドのレシピを確認していたタブレットで、彼女が口にした文言を検索する。

ヒットした記事をスクロールで流し読みすると、見覚えのある一文が目に留まった。

『理想論で言うと、ここで働いてる人たちもいずれは一般雇用枠になったり、
 健常者がいる中に入ったりして活躍してほしいなと思っています。』

やっぱり。サポートセンター名古屋の俊介さんが、ブログで言及しておられた件だ。

「その記事、読んだ?」と訊くと「見出し、チェックしただけ」と娘が答える。
「それじゃ、こっちの方が読みやすいし。感想、訊かせて」とキッチンカウンター越しに、ダイニングテーブルで読書中だった彼女へタブレットを手渡した。



「今日の夕飯は、簡単な献立だから。お手伝い、お願いすることは無いよ〜」

と声を掛けつつ、娘の様子を伺いながら切りの良い所まで夕食の支度を進める。生来抱える五感と認知の凸凹ゆえ読むのが遅い彼女は、時々バックスクロールを繰り返し丹念に目を通している。私もテーブルへ移動し、椅子に座りながら改めて質問した。

「その記事を読んで、どんな感想を持ちましたか?」
「うーん……。社長さんが、障害者の社員へ『今 この給与水準である理由』とか
 会社の経営状況とか『すべて伝えて』るところが、すごいなって思った。」

なるほど、なるほど。ウチの「自家製療育」でも、informed consent は重要な方針のひとつだったしなぁ。そこを第一に「すごいな」と思えたのは、自身の過去の経験に照らしつつ社長さんの真意を汲み取って、論旨を読解できた証左だろう。

「じゃ、この『理想論で言うと、……活躍してほしいな』て文章は、どう感じた?」
「……。」
「雇われる障害者側からは、社長さんの『理想論』って、どう感じられるだろう?」

そう言い添えながら Google+のプロフィールを常時表示させているタブへ移動し、「今度は、こっちを読んでみて下さい。」と俊介さんの『発達障害の人を積極的に雇用します!!僕は応募しないけど』という記事を開いた。



「……立場が変わると、全然違う感じ方になるんだね。」

私が Google+寄せさせて戴いた回答とそれに応じて俊介さんが綴って下さったブログ、加えて私が申し上げた御礼を読み終えた後、娘は静かに言った。声音は落ち着いているが、頻りに目頭を丸めたティッシュで押さえている。

彼女の「この記事書いたの、どんな人?」という質問へ、私が「美味しいものを食べるのが大好きで、穏やかで暢気な性格で、お嬢とよく似てる。まるで、あなたの兄さんみたい」などと紹介したあたりから共感が高まったらしい。

「その『気づき』が、『他者の合理性の理解』だよね。」

私がそう相槌を打つと、娘の眼がキラ〜ン!と輝いた。この遣り取りの目的は、彼女が卒業研究で取り組む「質的社会調査」を見据えたメンタリングという旨が分かったようだ。

「明日、大学の図書館、行ってくる。卒研の計画、詰めたいし」
「うん、行ってらっしゃい。」

***

サポートセンター名古屋の俊介さんがブログで書いて下さったとおり、発達障碍の二次障害を防ぐためには、『子どもとコミュニケーションを取れる親になる』ことが重要。

「普通」なら大人になるまでに自然と出来るようになっていくことが、自然と出来るようになれない「障害」なのですから、我が子の成長を引き出すには大人の導きが不可欠なのだ、と親御さんには考え方を改めた上でお子さんへ接して戴かねばなりません。

そして、障害者雇用という障害への迎合で支援への依存を強いる「情緒的庇護」に、当座の救済を得て安堵の息をつくのみに留まらず、障碍の受容と支援への信頼に基づいた当事者本位の「合理的配慮」で、社会の一員として貢献しうる自発的な適応を遂げるためには、メンターによる導きが必須だと私は考えています。


【補記】「お母さん」と「子」連作として、不定期連載しております。

>>第1回『「良いお母さん」と「悪い子」』を読む
>>第2回『「変な子」と「変なお母さん」』を読む
>>第3回『暴れる子 と『頑張るお母さん』』を読む

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