2014年7月31日木曜日

漫画描きの血・アニメ職人の血

先日、『グランド・ブダペスト・ホテル』を観に行った折、上映前の劇場予告で『思い出のマーニー』を瞥見。未だ封切り前のことで原作も未読でしたから、所詮はスレた読み手の妄想に過ぎないのですが。

各場面に潜ませた、伏線だの隠喩だの。語り手の想いを籠めたアレやコレやが、手に取るように“読めて”しまって……不意に湧き上がった怒濤の如き懐旧と慚愧の念に、枕かぶってウヒャ〜!!! と絶叫したい心持ちになってしまいました。

勿論、其処こそが製作陣の企図するところ 、なのでしょうけど……

その昔、リアルに多感な十代を女子校&女子寮で過ごした小母ちゃんは(と書いてて既に、甘酸っぱくも小っ恥ずかしい思い出が!)ウッカリ観に行ったが最後、全編に渉って変な声が出そうになっちゃいますがな〜。

そんな性分ゆえ、ジブリアニメの一番シックリ来る&お友達になりたい登場人物って、依然、『魔女の宅急便』のウルスラ嬢(と言っても、作中では一度も名前が出て来ない、森の中の小屋で油絵の大作を描いてたお姉さん)だったり。

『魔法ってさ、呪文を唱えるんじゃないんだね』
『うん。血で飛ぶんだって』
『魔女の血か……。いいねぇ、私そういうの好きよ。
 魔女の血、 絵描きの血、パン職人の血。
 ……神様か誰かがくれた力なんだよね。おかげで苦労もするけどさ』

デビュウ3年目にして誠に初々しい高山みなみ先生の、一人二役の対話だったとは俄に信じ難い渾身の美技も相俟って、素晴らしく印象的かつ素敵に凛々しい“The handsome woman”でしたよねぇ……たまらんvvv

などという経緯もありつつ、Amazonさんのカートに“今は買わない”で数ヶ月放置してた、荒川 弘氏『百姓貴族』第3巻を購読。『鋼の錬金術師』は単行本発刊毎に拝読しておりましたが、こちらと『銀の匙 Silver Spoon』は、自分の中で読みたい気持ちが高まってくるのを待って、おもむろに手を伸ばす作品です。

描き手のお人柄が真っ直ぐに顕れてるから、彼女と話をしたくなった時に会いに行く感じ。勿論、個人的に存じ上げてる訳じゃないんですが、拙宅では家族一同、図々しくも「荒川さん」呼ばわりさせて戴いちゃってます。

圧倒的な親近感と絶対的な信頼感の所以は、『血で描く』描き手だ、ってことが手に取るように“読めて”しまうから、なんでしょうねぇ。

読者が如何に感じ何を考えようとも、全部まとめてズバンと受けとめるぜ!という安定の潔さ。紛れもなく“百姓の血”、中でも最強の“開拓農民の血”で描いてやるぜ!って覚悟が、全てのページからヒシヒシと伝わって来ます。

やはり“語る力”を以て生業とするならば、斯く在りたし。

枕かぶってウヒャ〜!!! と叫びたくなってる観客の『横に座り、そっと寄りそうような映画を、僕は作りたい』だけってのは、プロとして如何なものか? 個人的な嗜好はそれぞれでしょうが、アニメ製作を生業とするなら断然『この一本で世界を変えよう』って位の覚悟が欲しい、と思っちゃうわけですよ小母ちゃんは。

翻って自分自身は、『血で書く』散文書きになる覚悟が、果たしてあるのか?

そんな自問で奮起したくなる気概を「荒川さん」から分けて戴ける『百姓貴族』第3巻、安定のお奨めです!


2014年7月24日木曜日

左京の送り犬【追補】

関東では一昨日、ほぼ平年並みに梅雨が明け、昨日は大暑
そして本日も、高曇りで蓋をされた所へ真夏の陽射しが照りつけ、雷雨が過ぎた後も依然、地表には蒸し暑さが籠もっております。

今回のお題と致しました“送り犬”。本来は“山犬”とも別称され、日本各地に伝説が残る妖怪です。夜中に山道を歩くと、いつの間にか背後へピタリと付いて来て、何かの拍子で転ぶと忽ち食い殺されてしまう、という聞くだに恐ろしい怪異。

暑中見舞いに、そんな肝の冷えるお話でも一席、と思ったのですが。名付け親が、旧い火山を御神体とする正二位の大御神、しかも数え九つまで神奈備で生い育ったためか、護りが強いようで。生憎、怪談の持ち合わせがございません。

代わりに、48年振りに復活した祇園会の“後祭”を、NHKスペシャルで拝見した折、ふと甦った夏の夜の思い出話にて、暑気払いとさせて戴きたく……

***

大学院生だった時分、所属する研究室は聖護院川原に在った。下宿は浄土寺だったから、黒谷の金戒光明寺、あるいは地続きの真如堂を横切れば、近道になる。

京の街路が、遍く正しく経緯に沿うのは、鴨川まで。左京に入れば、都の日出を画す東山の峰々が迫り、複雑に傾斜する土地に従って、小路は止む無く曲折する。殊に吉田山を擁する京大周辺は、乱麻の如き錯綜ぶりだから、深夜の散歩よろしく、日毎に気儘な帰途を辿るのは、実験に疲れた後の楽しみでもあった。

その当時、黒谷界隈にお住まいの何軒かは、夜廻り代わりに飼い犬を放つ習があり。真夜中の静まり返った辻々を、闊歩する彼ら(主に柴犬系の雑種)に初めて出遭った時は、政令指定都市とは思えぬ鄙びた長閑さに、些かならず驚いた。

しかし、何れも良く躾けられた様子で、道で行き合うだけなら、人にも犬にも吠え付くことなど滅多に無い。各々、衛門府の衛士張りに、自分の持ち場をグルリと検分した後、粛々と家路につく忠犬ばかり。

私自身の嗜好は、断然“猫派”なのだけれど、懐いてくれるのは、むしろ犬の方が顕著で。何度か邂逅する内、とある一匹と懇意になった。彼の方は、私を匂いで覚えてくれたのだろうが、当方は勿論、名を教えて貰う訳にいかず。

ワンと吠える代わりに吐いていた、勇ましげな鼻息に因み「フンちゃん」なる愛称を奉った(夜行中、粗相をする不躾者だったからではない旨、申し添えておく)。

2014年7月16日水曜日

甘美な追憶の果てに

いや〜、メチャメチャ驚嘆しました!『グランド・ブダペスト・ホテル』!!!
(あ、公式サイトへのリンク、BGMが鳴りますので御留意くださいませ)

この6月に封切られた映画、佐々木蔵之介さんが好きな私も、陣内孝則さんが好きな相方も、むしろ『超高速!参勤交代』が気になってたんですけど。御覧になった皆様のレビュウを拝読するに、『ジャズ大名』が好きな私も『大江戸捜査網』が好きな相方も、生憎、期待してたのとちょっと違うのかな〜?という心持ちに。

とは言え、なにせ5月から6月は、『ダウントン・アビー』にズップリ嵌まってましたから。最終回を堪能させて戴いた後も、“ドラマ”への熱が冷めやらず(“あまロス”ならぬ“ダウアビロス”?って、こんな略称ございませんがw)。

ジュリアン・フェローズ御大が描く濃厚緻密な正統派群像劇とは一転、思いっ切り軽佻浮薄なslapstickも美味しそう!って事で。

Sweet & Lovelyな映像のみならず、『イングリッシュ・ペイシェント』Ralph Fiennes(と言うか、むしろ『名前を言ってはいけないあの人』)や、『インデペンデンス・デイ』Jeff Goldblum(と言うか、むしろ『イアン・マルコム博士』)や、『プラトーン』Willem Dafoe(と言うか、むしろ『グリーン・ゴブリン』)等々、曲者揃いの俳優陣にも心惹かれ、レディースデーな水曜日を幸い、チャッカリ一人で観て参りました〜vvv

だが、しかし!案に相違して何よりも圧倒されたのは、語られた“ドラマ”そのものでした。以下、一応『ネタバレ御注意!』な改ページ挿入しますけど。

ストーリーの90%以上が、テーマと全く関係無かったじゃん!
なのに、エンドロールでこんなに涙が溢れてくるのは何故?!
監督/脚本/発案/製作のウェス・アンダーソン、スゴイ凄すぎる!!!

てな衝撃が、真っ先に浮かんだ感想だった旨、申し添えておきます。

《以下、『グランド・ブダペスト・ホテル』のネタバレ御注意!》

2014年7月14日月曜日

在庫不足につき

『下書き』が10件以上溜まってるのに、どれ一つ記事に仕上がってくれないのは、“在庫”が足りない所為!と開き直って、補充中。

然りながら、自宅警備員な(家事の手を抜きまくってて、主婦を名乗るのは烏滸がましいw)現状ゆえ、一次元・二次元とも、サブカル情報の入手は専らネットを頼る事に。以前の記事で触れた文化庁メディア芸術祭は、審査委員会推薦作品を含め、大いに参照させて戴いてます。

今、特に気になってるマンガは、昨年度優秀賞の『昭和元禄落語心中』と、推薦作品だった『イノサン』。

テイストがまるで違う所が、画風・作風不問のスレた読み手たる面目躍如。ですが、“ネタバレ”を喧しく指弾する輩が跋扈する昨今、ネタどころかオチさえ周知の噺を、如何に物語るかが技芸となる落語家、あるいは、スジが何冊もの書籍に上梓されている、世界で一番名の知られた死刑執行人を、敢えて主人公に据えた描き手の気概が、興をそそるのです。

で、タイトルから既にして“ネタバレ”な前者、雲田はるこ氏の作は完結待ち。

試し読みでマンガとしての表現力の高さを充分拝見出来たのに、今すぐ既刊を読もうとしない所以は……例えばコマ割りの絵からテキストに書き下したとしても猶、物語それ自体に“読ませる力”があるのか……描き手の“語る力”すなわち、物語に対する俯瞰力がどれほどか?って所まで確認の上、拝読したいから。

それから、タイトルを一見しただけではイミフな後者、坂本眞一氏の作は(“innocent”の仏語読みですね)『歴史出典』になさってる『死刑執行人サンソン ― 国王ルイ十六世の首を刎ねた男』で、ひとまず予習中だったり。

“人生の折り返し点”を過ぎ、良く言えば用心深く、悪く言えば精神的なケチになっちゃった、イケずな小母ちゃんで誠に恐縮。

そして、如何に巧みなコマ割り・台詞運びであっても、息を呑むほど圧倒的な画力で描かれていても、“語る力”が物足りなければ手を出さない、因業なマンガ読みになってしまった原点……

『トーマの心臓』『11人いる!』萩尾望都先生が、我らが世界へ帰って来て下さいました!

今月10日に発売された新作『AWAY -アウェイ-』第1巻は、大反響。日頃お世話になってるAmazonさんなぞ、発売2日目以降、慢性的な在庫払底が続き、早くも未読の新品が再販市場に出されてる(勿論、プレミア付きで)勘定高さに、感心したり呆れたり。

然れど、心づもりが整っております以上、小母ちゃんは慌てず騒がず。原案となさった小松左京御大の短編小説を、手当たり次第にSFを耽読していた遠い昔の朧な記憶へ尋ねつつ、重版出来にて在庫充分となった頃合いを見計い、おもむろに発注させて戴く所存です。


2014年7月8日火曜日

理系女子ですが、なにか?

更新が1週間以上、滞ってしまいましたけれど……私は、元気です。
あ、五十肩も再発してませんよw

ただ、“水無月”で美味しく夏越の祓を済ませた翌日辺りから、例のまるでオカルトなSTAP細胞を巡る経緯につき、少しく悶々としておりました次第。

理研CDBのTセンター長も長年親しんでおられた筈の『穢れを厭う古都の遺風』で、衆愚の蒙昧をスッキリと祓い清めて戴きたかったのですが。誠に残念ながら、期待が外れてしまいました。

とは言え、ガバナンスやら科学行政やら、当世流行の仰々しい概念を持ち出すまでもなく。問題の構図は、『裸の王様』の寓意が誡めているとおりに過ぎません。

『虚栄心ばかりが強く、美しい衣装で着飾って、それを見せびらかす事にしか』関心を示さず、務めを怠ったために『今在る地位に相応しくない』と断罪された『絶望的に愚かな』王様が、今や街の群衆のみならず世界中から嘲笑されているのに、依然、行進を止めようとしないだけ。

しかし『今在る地位に相応しくない』王様=『未熟な研究者』と断ぜられたO嬢が、麗々しい“行進”=千里眼事件も斯くやな“検証実験”を続けられる拠り所は、神聖にして侵すべからざる王権には非ず。

『今在る地位に不適任な者、あるいは絶望的に愚かな者』は、“裸の王様”当人だけでなく、後見している“大臣達”も同様だったという事。喩えのつもりで先日の記事を公開致しましたのに、現実の大臣が寓話そのままでは洒落にもなりません。

更に、自然科学者の矜恃を以て大臣の愚昧を正し、理研改革委員会の提言を真摯に受けとめるべき立場にありながら、猶も優秀な部下が良きに計らってくれるだろうという、鷹揚にして無責任な日和見主義を続けるTセンター長

男子ばかりの環境でお育ちになった諸兄が、“女子力”に免疫をお持ちでない旨は、重々存じ上げておりますが。理系男子の“シスターコンプレックス・ファンタジー(『俺の妹がこんなに×××わけがない』という例のアレ)”から、いい加減に目を覚まして戴きたい!

この問題に都度声明を発している日本分子生物学会理事長の大隅典子教授、CDB内部から告発の声を上げた高橋政代プロジェクトリーダー、そして、Tセンター長の問題点を指摘した竹岡八重子弁護士が、いずれも女性であるのは所以無き事ではございません。

皆様、理系男子の“似非フェミニズム”に、心底ウンザリして居られるのです。

勿論、男女の別に関わりなく、真理を探求する自然科学者に相応しいメタ認知能と高邁な精神を以て、問題の在処を考察して下さっている諸兄も居られます。

Tセンター長に於かれましては、何卒、後輩達の提言に蒙を啓き、御勇退の前に晩節の穢れを御自ら祓い清めて下さいますよう。