2014年6月29日日曜日

階上と階下の運命

最終回も勿論、余す所なく堪能させて戴きました! 『ダウントン・アビー』!!!

実は「巧い脚本家は『円環する物語』がお好き」てのが、持論だったり。僭越ながら此度も、その私説に超絶強力な“実証”を賜り、心中ニヨニヨしておりますv

そして第6話「通い合う想い」レビュウで、第1シーズンの時系列と併せ、考察を試みたご令嬢お三方の社交活動状況(特に長女・メアリー嬢のギリギリ婚活っぷり)にも、目出度く“正解”の答え合わせを戴けました〜vvv

更に加えて「正統派群像劇の一番の醍醐味は、会話の妙なのだよ」と、辣腕を惜しみなく振るって下さるジュリアン・フェローズ御大!!!

午後のお茶仲間な「ヨメ・トメコンビ」とか。喫煙仲間な「悪巧みコンビ」とか。お馴染みになった組み合わせだけじゃなく、意外な取り合わせで展開した対話にも、登場人物の“想い”を忍ばせる見事なスクリプト。偉大な劇作家を生んだ英国の奥深い伝統を、ヒシヒシと感じました〜(ウットリ)

てな調子で、萌えまくり・滾りまくりの拡大版な最終回!

毎度お世話になりました、村上リコ様設営ハッシュタグご参加の皆様と一緒に、ガッツリ盛り上がります!!!

《以下、第7話「運命のいたずら」のネタバレ御注意!》

前回、先代伯爵夫人・ヴァイオレット様が魅せて下さった、素晴らしい機転……夜這い中、メアリーの寝室で急死した、オスマン帝国の外交官・パムーク氏を巡る陰謀説をでっち上げ、公爵夫人が吹聴して来た“悪い噂”を巧みに封じるくだり……にも、メチャメチャ萌えましたけど。

なんとH. G. ウェルズも嗜んでおられたのですね、ヴァイオレット様ってば!

いや〜実は当代の人気作家を絡めたエピソードも、大好物だったり致しまして(しかもSFって所が堪りまへん!)。最終回の小ネタも怖いくらいに、痒い所に手が届きまくり、ツボへ嵌まりまくっておりますw

そんなヴァイオレット様のお茶目可愛さを、遺憾無く受け継いでらっしゃる三女のシビル嬢。お屋敷へ電話を敷設しに来た業者と、如才なく交渉し、ずっと応援してたハウスメイド・グエンの転職を、遂に実現しちゃいましたね!

お掃除で忙しいグエンを呼び付け、すかさず書斎で面接させちゃう機転と、運悪くやって来たお父様を、正直に事の次第を打ち明けつつも、撤退させちゃう小悪魔っぷり……“聖賢の無謀”の面目躍如に、もう小母ちゃんメロメロですw

初々しい美貌と共に、快活な性格と機敏な才智を、ロンドンで存分にお披露目なさって来たであろう、シビル嬢。パーティーへの御招待が引く手数多で、社交界デビュウは大成功だったのも、至極納得です。

ですがそうなると、泥仕合の様相を帯びて来た、次女・イーディス嬢 vs. メアリー嬢の婚活競争は、一層、陰湿さが度を増す事となり。

如何なる経緯か、婚約解消してしまった『良い人過ぎる』ネイピア閣下。イーディス嬢の“浅略”を(オスマン帝国大使に宛てた密告状に、差出人の氏名、書いちゃったんでしょうねぇ。アホな子だからこそ不憫可愛い……にしてもアホ過ぎる(ハァ〜)メアリー嬢に告げに来たのは、あくまでも義憤からなのでしょうが。

絶望的に“空気が読めない”お人柄……やはり外交官には、全く向いてませんw

今後、混迷が続く“戦争の世紀”なのだから。外交官は、いっそ第一フットマンのトーマス並みに、腹黒い方が良いのかも?などと思ってしまうくらい、周到に転職活動を済ませた上(しかも『迷える魂』にとって、格好のcruisingとも言える衛生兵へ志願するとは、お見事w)、計算尽くで炸裂させた悪漢小説の冒頭も斯くやの奸悪ぶり。

けれど、それも……実は「悪巧みコンビ」の相棒すなわち、侍女を務めるミセス・オブライエンの、奥様へ向けた密やかなambivalenceを際立たせ、彼女たちの“悲劇”を哀惜深く余韻嫋々と物語るための、“背景画”だったようにも感じるのです。

Mrs. family nameで呼ばれる、上級使用人でありながら。家政婦長の永年勤め上げて来た自負や、料理長の専門職として奉仕する矜恃とは異なり、侍女が頼みに出来るのは奥様の御寵愛のみ。

生粋の英国人であるミセス・オブライエンにとって、アメリカ成金出身のコーラ様は、話す言葉も価値観も、僅かだけれど歴然とした違和感を、日々感じてしまう“奥様”だったと思うんです。

なのに奥様自身は一方的に「彼女に好かれている」なんて、後生楽な事を仰ってるのが、堪らなく哀しいですよねぇ。ゆえに10年も勤め上げてきた今でさえ、心底からの信頼関係は築けていない不安があって

入浴中の奥様の手から滑り落ち、二つに割れてしまった、石鹸の隠喩。奥様へ注意を促しつつ、浴槽から出る際、踏んでしまうであろう位置へ、拾わなかった石鹸の欠片を足先で滑らせる、未必の故意。

己の醜悪な情動から、逃れるように入った隣室で、鏡に映じた自分に「あんたは、こんな人じゃない!」と言い聞かせるも、改悛は既に遅く……

静謐でありながら残酷なまでに、階上と階下の間に横たわる深い亀裂を、暴き出したシークエンス……何とも言い難い痺れが背筋を走り、知らぬ間に握り締めていた両の拳が震えました!!!

旦那様が計らって下さった破格の待遇で、当時最高の治療を受けさせてもらった、ミセス・パットモアがどうやら復帰し、ベイツ氏へ向けられた疑惑が妻を庇うための冤罪だったと、アンナさんの奔走で一応の解決を見たのが、せめてもの救い。

そして、依然として迷走を繰り返す、メアリー嬢とマシュー青年の不器用な恋。
己が犯した“凡愚の浅略”の報いで、平穏な幸福を逃してしまったイーディス嬢。
無邪気な友情に隠された己への思慕に気付かぬまま、青春を謳歌するシビル嬢。
アンナに深い愛情を感じながらも、己の心を過去の罪障に繋ぎ続けるベイツ氏。
“悪い魔法”から解き放たれたデイジーと、徐々に想いを育もうとするウィリアム。

戦争の気配が、果たして現実の脅威に変わった、その日。

1914年8月4日の宣戦布告は、第1シーズンの閉幕を告げる鐘であり……
階上と階下に住まう一つの『家族』が、この先、立ち向かって行かねばならぬ新たな運命の、序章でもあるのでしょう。


>>第1話レビュウ『階上と階下のドラマ』を読む
>>第2話レビュウ『貴族の威信・市民の矜恃』を読む
>>第3話レビュウ『華麗なる婚活・隠然たる不穏』を読む
>>第4話レビュウ『変わる勇気・変わらぬ気概』を読む
>>第5話レビュウ『凡愚の浅略・聖賢の無謀』を読む
>>第6話レビュウ『世間の噂・家族の絆』を読む

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