2015年10月31日土曜日

わるいのはママです!

朝、起きて台所へ行く。

昨晩洗って、水切り籠へ入れた食器の隙間から、
いつも使っている万能包丁の刃が、覗いている。

今日も、何の不安もなく、刃物を放置できる。
私は、そんなことにさえ幸せを感じる母親だ。

「幸せ自慢」も「修羅場話」も、本旨ではない。
ただ、『発達障害な僕たちから』のヒロさんから、
あなたは何者なのですか
と、ご質問戴いたのに、お応えしているだけのこと。
もう一つの記事で、青木先生が思わず唸って下さったらしい
「あの人すごいな」が読後の一言だった
という件さえ、自嘲の念は湧いても決して自慢には思わない。

殊に、青木先生へ心酔なさってらっしゃる皆様がたには、
どうか誤解なきよう、蛇足ながらお願い申し上げたい。

『すごい』母親なんて……。
当事者は無論のこと、支援者にとっても専門家にとっても、ウザいだけだ。

***

同級のお友達に何年か遅れて、ようやく二語文の発話が……と安堵したのも束の間。

『わるいのはママです!』

自閉圏の子にありがちな、言葉遣いだけは慇懃だが、内容は自分勝手としか言い様が無い娘の発言に、私は頭を抱えた。しかもご丁寧に、音声言語に先んじて覚えてしまったひらがな・カタカナで、おえかき帳にも同じ文言を書き殴っている。

保育園でも全く同じ調子で、先生やお友達に向かって『わるいのは〇〇です』なんて言ってたら……沸騰し煮詰まる妻を見かねた相方が、「今夜はオレが面倒みるし。アンタは一晩、頭冷やしといで」と、都内のビジネスホテルを予約してくれた。

2015年10月29日木曜日

美味しい食べ物・ 正しい人々

ブログ『発達障害な僕たちから』のヒロさんに、ご多用を押して丁寧なコメント返しを戴きました。文中で『あの、マンガ届けられましたよ』と言及して下さったのは……

先月末、名古屋へ赴いた際、サポートセンター名古屋の事務所までお邪魔して、一階受付でご対応下さったスタッフ様に言づけさせて戴いた、とある自主制作マンガのこと。

その本へ添えたお手紙、若干の改稿・補足を加えて再掲しておきます。

***

ヒロさん、大統領さん、
俊介さん、大野さん、名無しさん、

そしてブログには登場していないけれど、
青木先生はじめサポートスタッフの方々が
この本を読んで戴きたいと判断なさった皆さん、

いつも大変お世話になっております、ヒルマです。

この度、ご紹介致します『Artiste アルティスト』という作品は、
「さもえど太郎」というペンネームを名乗ってらっしゃる女性が
“自主出版”したマンガです。

商業作品ではないため、一般には市販されていません。
今年8月に東京で開催された展示即売会「コミティア」で発行・頒布、
現在は、アリスブックスで委託通販なさってます。

また、第1話第2話は、ウェブでも公開されています。
#作品の閲覧には、pixivアカウントが必要です。

***

主人公の名前は、ジルベール・ブランシャール。
フランスはパリの有名レストランで皿洗いをしている、27歳の青年です。

第1話を読んで戴くと、彼がどんな人物なのか判ってくるのですが……
少しだけ種明かしをすると、どうやらジルベールも『五感に凸凹がある』
みたいなんです。

2015年10月27日火曜日

この親にしてこの子あり

『お元気になられてなにより』

更新再開後の記事をご笑覧下さった方から、こんな優しいお心遣いを戴きました。

確かに、原稿できなかった事情を『同級生の皆さんに後れを取りやしないか、と気を揉んで』と綴りましたから。“普通”のお母様がたなら「気を揉む→心配が嵩じる→不安が募る→元気が無くなる」状況だったでしょうね、言われてみれば。

されど憚りながらヒルマ小母ちゃんは、時に「筆者は男性」と勘違いされちゃうほど、筋金入りの「いけず」なメタ認知を備えた理系女子。しかも“普通じゃない”事象にこそキラ〜ン!と眼が輝いちゃう、好奇心主導な元実験研究者ですので……

この十数年間、試行錯誤を重ねてきた“自家製療育”の過程で、自分なりに日々考察を続けてきた結果、抽出に至った

 メタ認知・感覚情報の共有力・行動化の瞬発力が、全て揃えば
 感覚や認知に凸凹があっても、ライフを溜めて成長して行ける

という『理 (ことわり)』を、サポートセンター名古屋ヒロさん達だけでなく、娘も実証してくれるだろうか?という不遜なワクテカ感の方が、ぶっちゃけ勝っておりまして。

ぃや〜むしろメチャメチャ元気でしたね〜w 当時のツイート再録編集してたら、いつまで経っても原稿作業が終わらなくて。自分の字書き厨っぷりにエエ加減腹立ってきたくらいw 実はずぅっと元気でした(テヘペロ) せっかくいたわって戴いたのに、恐縮の極みです。

原稿へ集中しかねた経緯を、具体的に補足すれば。

補欠合格で辛くも入学を許された大学へ進む、という彼女にすれば生まれて初めての「背伸び」をした娘が、『失敗しない経験』を積めるよう、青木先生のアドヴァイスを参照させて戴きつつ、心配ならぬ“心配り”すなわち配慮にこそ注力しておりました。

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しかし、蓋を開けてみれば……

さすがは最大事業規模を誇るトップ型スーパーグローバル大学が、総力を上げて取り組んだユニバーサルデザインに基づく学内SNS……なんて書くと、ワケ判りませんけどw
要するに、世界中から数万人の学生院生が集うマンモス大学なればこそ、“多様性”への配慮は、必然的に大学経営の根幹となる次第らしく。

スマホでもパソコンでも端末の操作さえできれば、履修登録その他諸々の手続き一切は、自宅でも自習室でも本人が落ち着ける場所で、済ませることが出来ましたし。

いざという時に相談できる・情報提供や啓発活動も行っている「障がい学生支援室」が設置されており、昨年から発達障碍への対応も始動したことが分かりましたし。

新入生は担任教授が指導して下さる「基礎ゼミ」で、週に一度は同じ顔ぶれのクラスメイトと学習法やデータ解析を履修する上、高校から引き続いて茶道サークルへ入会させたので、『知り合いをつくること』もバッチリ完了。

クラスでは級友にパソコンの使い方を、サークルでは初心者にお点前の所作を、請われて教える“役割”が天然自然に実現し、『具体的な所属場所』を確保できました。

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でも、いちばん肝要だったのは……

2015年10月24日土曜日

冠省、“発達障害な僕たち”さま

サポートセンター名古屋ヒロさんが、ブログ卒業非障害自閉症スペクトラムへの旅立ちのスケジュールを、宣言なさったお祝いにかこつけて。“種明かし”ついでに、旧来の診断名なら高機能自閉症児の親だった、なんて次第まで白状しちゃいましたが。

私自身はやっぱり、当事者でも支援者でも専門家でもなく……

ヒトの脳の働きに興味があり、趣味の範囲で勉強している「野次馬の傍目八目」という間合いを、この機に詰めようなどという目論見は、毛頭ございません。

当事者の親御さんの中には、一念発起して専門家の資格をお取りになったり、自ら支援の場を発足・運営なさったり。尊いお志に基づいた「行動化の瞬発力」を、遺憾なく発揮してらっしゃる皆様が、幾人もおられますけど。

野次馬は、客観的かつ冷静な俯瞰に在るというだけで、八目も先まで手が読めちゃうワケですし。博士号を允許戴けるまで、理学すなわち世の理 (ことわり)を究める学問にて、鍛えて参りましたメタ認知をこそ、今後も活用いたしたい所存。

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てなコトで、実は大学受験より手に汗握ってた、娘の学期末試験真っ最中な今夏7月。ブログ『発達障害な僕たちから』好奇心と敬意と仁愛を以て、寄せさせて戴いておりましたツイートを……

衒いの無い穏やかな筆致で、たくさんの有意義な示唆を与えて下さった俊介さん
10年越しの粘り強い支援に応えて、熱い魂を見事に花開かせて下さったヒロさん

若干の改稿を加え、深謝を込めて再掲いたします。

2015-07-06 『みんなの状況 俊介』へ寄せて


『2年前には今の状況なんかまったく想像できなかった』
『そのギャップに戸惑う』
『自分じゃない気がして少しきみが悪い』

その感覚が、メタ認知が成熟し自我が確立していく徴候なのでは……と思います。

『残念なんですけれど、僕は泣くまでにはいきません』

ぃやぃや、恬淡として穏やかな人柄こそ、俊介さんの素敵な所ですから。『なるほどそうなのかと気付き』を得て下さったなら、それに勝る幸せはございません。
明日から勉強する料理には、熱くなって戴きたいですが。

そして大野さんは、方向性さえ定まれば進捗が素晴らしく早い所が、さすがです。

ブログの続きを書こうと深く悩んでらっしゃるご様子、俊介さんは若干心配なさってますけど。ひょっとしたら沈思黙考するのが、大野さんにとっての“安心毛布”(俊介さんにとっての格闘ゲーム)なのかも。

端から見ると、スゴク大変そうに感じられるかもしれませんけれど……

本人はあれこれ思索を巡らせること自体、案外楽しんでらっしゃる所があるのかも知れませんよ。サポートセンター名古屋的には稀なケースと拝察しますが、ワタクシ的にはむしろ、大野さんのようなタイプは馴染みがございますので。

2015-07-07 『こうして僕は回復した 俊介』へ寄せて


『人の視線が怖いのです。でも幼稚園児やかなりの高齢者の視線は怖くありません』

これこそが、当事者さんの実感ならではのリアリティ。
定型多数派視点の現象論では、決して到達し得ない臨場感です。

視線は本来、他者と感覚情報を交感・共有するため、最も基本的かつ重要な非言語コミュニケーション(いわゆる共同注視)なのですが。俊介さんは鋭敏すぎる五感をお持ちなため、他者の感覚情報を精細緻密かつ大量に感受しすぎて、いわば共同注視への過剰適応状態に陥ったものと拝察します。

『自分の妄想なんです』とメタ認知が冷静に判断していても、一度ワーキングメモリが感覚飽和=パニックに至ってしまうと、手が震えたり叫びだしたくなる衝動に駆られたり。身体の制御まで出来なくなって、その場にしゃがみ込むか、全速力で逃げ出す他に、為す術が無くなってしまうのでしょう。

就学前のお子さんや、かなりご高齢の方々は、相手の共同注視が未発達あるいは衰えてらっしゃるので、たぶん俊介さんの視覚過敏を以てしても、過剰適応を起こす危惧が無い。ゆえに、そういった皆さんの視線は、きっと怖くないのですね。

#共同注視(joint attentionの訳語です)については、脳科学辞典サイトで「共同注意」の項をご参照下さい。

勿論『環境を変える』という具体策こそ『とても大切』ですし、支援を受けている今の俊介さんは、どうすればいいか重々分かっておられますが。

『視線が怖い』という“現象”の理 (ことわり)を解きほぐすことで、自己評価を不当に貶めていた誤学習を修整する一助となれば、身に余る幸甚です。

2015年10月21日水曜日

人類のワイルドカード

『知ったふうな口ききやがって!
 どんなに苦しい思いをしてるか……あんたに判るわけ無いだろ!!! 』

『どんなに苦しいかは、“識って”るだって?!

 “感じる”ことが出来ないくせに……あんたに判るわけ無いだろ!!!

当事者さんへ宛てた「野次馬の傍目八目」を書きながら、ずぅっと胸の裡に渦巻いていたのは、こんな調子で繰り返される、“もう一人の自分”との激しい応酬でした。

支援者でも専門家でもないくせに。ヒトの脳の働きを趣味で勉強してきただけの私が、お節介にも発達障碍当事者さんへ、再々、自己流の考察を寄せさせて戴く“動機”。

それは第一に、彼らの“多様性”へ向けた、好奇心と敬意と仁愛
そして傲慢にも支援できるつもりでいた、無知蒙昧と自己過信への苦い後悔

でも、自分のメタ認知が容赦なく繰り出す、手厳しいツッコミに閉口しつつ
猶も書かずに居られない、最大の駆動力は、理系女子の屁理屈ではなく……

やっぱり、五感や認知の凸凹を抱えて生まれてきた、“多様性”ゆえの
疎外感に苛まれ苦しんでいる子を持つ、親としての思いだったんです。

***

『それならそうと、最初から言ってくれれば……なんで隠してたんだよ?!!』
『突然、そんな“告白”されても……何が何やら……混乱してまうやろ……』

ヒロさんや大統領さんは、困惑なさってるかなぁ。申し訳ありません。

『当事者でも支援者でも、専門家でもない』てのはホントだし、『学生の頃からヒトの脳の働きに興味があって、趣味の範囲で勉強してきた』てのもホント。だけど、自閉症スペクトラムの子を持つ母親という“正体(の一部)”を、敢えて申し上げずにおりました旨、深くお詫び致します。

でも、ヒロさんも大統領さんも、自分自身の五感や認知の凸凹が、次から次へと生じさせる問題へ、まだまだ直面しなければならなかった、去年の11月

自閉圏だけど予後は悪くない娘の話を、最初にしていたら……

『はいはい。娘さんは「程度の良いアスペルガー」なんですよ、俺と違って!』

自閉症スペクトラムなのに『社会適応は悪くない』おかげで、不登校でも引きこもりでもなく。『むしろ適応の良好な』娘を持つ、母親の自己流な考察を書かせて戴いても、そんな感じで一蹴されちゃってた気がするんですけど。

ヒロさんや大統領さんは、どうお思いになりますか?

2015年10月20日火曜日

爾後の顚末

ブログ更新が滞っておりました四半期の間にも、
過去記事のご閲覧、誠にありがとうございました。

休止中は、本来業務すなわち家事へそれなりに注力しながら、猛暑の最中に引越を敢行していたり。その間、例によって下書きは溜まりつつも、完成に至らず。

原稿へ集中できなかった事情は、娘の大学受験がおかげさまでどうにか落着したものの、実は補欠合格で辛くも入学を許可戴けた私立大学へ進んだため。正規合格した同級生の皆さんに後れを取りやしないか、と気を揉んでおりました次第。

世間一般の親御さんは大学受験の最中にこそ、心配が嵩じ不安が募る向きが主流なご様子ですけど。高校までの手篤いご指導を離れた「爾後」こそ、娘の将来にとって遥かに肝要なのは、私自身の経験からも重々承知しておりましたし……

***

しかし、蓋を開けてみれば……

1月中旬のセンター試験から3月半ばの補欠合格結果発表まで、2ヶ月に渉って己の不備不足へ否が応でも直面し続けた苦い経験は、努力の何たるかをようやく彼女に知らしめてくれた模様。

親バカ全開、恐縮の極ではございますが。春学期を修了し9月初頭に公開された成績判定は、未だ嘗て無いほど良好な結果。口喧しく娘を叱咤してきたオカンも、事ここに至り遂に降参ですw

国立・私立の差はあれど……

一浪しての大学合格、そして理学部生なのに数学の必修単位を落としてたオカンは最早、先生がたへご心労をお掛けしつつも現役合格、更に留学や奨学金公募の推薦基準にも適うGPAを獲得できた娘へ、どうこう言える分際にはございません。

***

さて、30年振りの大学受験に、今回は親の立場で考察を巡らせつつ……

同じく昨年の晩秋から一年近く、心の発達や脳の機能様式の違いすなわち感覚や認知に凸凹をお持ちなために、社会への適応に難儀を抱えてらっしゃるお若い方達へも、文章を寄せさせて戴いて参りましたけれど。

ここらで一つ、“種明かし”をいたしましょう。