2019年2月1日金曜日

多様性発達者の自己投資

通うべき所へ通い続けられる「配慮と我慢」の自発を最優先に据え、娘が大学生活に馴れてきた頃合いを見計らい2回生で早々に始動した就労支援の「予習」は、3回生の春学期を終えた時点で『何をしたいのか そのために何をすべきか』という認知を彼女自身が把握できる俯瞰へ達しました。その後ようやく修学支援へシフトし、すったもんだがありつつも4回目の春学期を終えたところで、卒業研究を除く所定単位を無事満了。

昨年夏には「みんなと同じ」ペースで大学から卒業見込のお墨付きを頂戴できましたが、ニッチな専門職に一旦就いたあと学資を貯めて留学するという自己投資の覚悟へ娘が到れた旨を幸い、夏休みから年末まで研究調査と論文執筆にガッツリ注力していました。

えぇっ?! さすがに4回生の夏には就活を始めさせなきゃマズいんじゃ?と思った親御さんがたには、僭越な物言い不躾ながらその附和雷同こそ「就活がうまく進まない」原因。「みんなと同じ」教育課程で積める「普通」の経験を通過させただけでは、いかに優秀な学業成績を修めていようと人間としての不備不足を抱えたまま長じてしまうのが、定型の枠を大きく外れたPolymorphous Developments=多様性発達者なのです。

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2019-01-31
障害者就労から一般就労を目指すアスペルガーの彼。東大

結婚したいので いますぐ たくさん稼げるアルバイトをする考えが強かったヒロさんです。住み込みで働けば毎月 税金などが引かれても20万円が貯金できる仕事を見つけてきました。   
「1年働いて 200万近く貯めたらフィリピンに帰って結婚して、また日本に出稼ぎに行きます。」「2回目は 嫁さんも同じ工場で働けば一石二鳥。」「5年間 夫婦で必死に貯めれば1500万円貯まるな。」   
そんな提案を 青木さんにしました。青木さんは そこまで真剣に先のことを考えられるまでになったヒロさんに 驚いていました。   
「1500万円持ってフィリピンに帰って、アパートを建てたら、毎月決まった額が入って来るし、その仕事は45歳まで良いらしいので、子どもができたら嫁さんと子どもをフィリピンに残して、僕は また日本で会社の寮生活をしながら お金を貯めます。」  「そうしたら45歳まで あと2,000万円貯金できます。」「それで僕はフィリビンに帰って、何か商売を始めようと思いますが、どう思いますか。」   
「その仕事の問題点は ないだろうか?」 
「病気になったら 解雇ですよね。保険なんかも ないし。」 
「そうだね。それから あとは ないかな。」 
「ないですね。」   
「奥さんと子どもをフィリピンに残して 自分1人が日本で寮生活というのは我慢できるのだろうか。1年なら なんとかできるかもしれないけれど。」   
「・・・・・・」  「僕は大きな失敗をしましたよ。大学を卒業しても 何もスキルがないんです。どこも雇ってはくれませんよ。会社が必要とする スキルがないんです。」   
「一緒に考えて行こう。」と言った青木は、以前お世話になった会社経営者の皆さんに「英語とタガログ語ができる30の男がいる。フィリピンで10年近く住んでいたので、フイリピン人の管理は得意です。」とヒロさんを売り込んだのです。   
いくつかの会社が興味を示してくれました。その中で一社は特に良い待遇で迎え入れようとしてくれたのです。     
その話を聞いたヒロさんは驚いていました。しかし、少し考える時間が欲しいとのことでした。1週間後、ヒロさんは青木に言いました。   
「タガログ語と英語が よくできることは スキルですよね。スキルさえあれば 年齢なんか あまり関係ない。そうですよね。それで、すみません そのオファアー お断りしてください。僕は今一度、自分の将来をより良くしたいので、大きく方向転換することにしました。」    
これから先は 彼が彼の言葉で 語る必要があります。

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ヒロさんが真剣にお考えになった「30歳から45歳までの15年間を『いますぐ たくさん稼げるアルバイト』へ注力し、16年後『フィリビンに帰って、何か商売を始める』資金を貯める」という将来設計も、立派な自己投資だと私は思います。

でも「1年働いて200万近く貯められるから200万×15=3000万!」という皮算用が実現叶うのは、心身ともに頑健で不屈のバイタリティを備えている、例えば国中挙げての出稼ぎ文化の中で健やかに生い育ったフィリピン人の青年でしょう。

青木先生の導きでお気づきになれたとおり、生来抱える五感や認知の凸凹ゆえ、病気に罹りやすかったり寂しさへの我慢が利かなかったり、設定上「みんなと同じ」がどうしても無理ゲーになってしまう私たちヒルマ小母ちゃんも歴とした?ADHDクラスタですので)にとっては、たいへん残念ながら実現の可能性は極めて低い将来設計なのです。

とは言え「またバカなことを考えちまった〜!!!」と、落ち込む場面ではありませんよ。
青木先生が『そこまで真剣に 先のことを考えられるまでになった』旨を感心なさっておられたとおり、ヒロさんが誰に促されることもなく自発的に『自分の将来を より良くしたい』という自由意志をお持ちになれたことは紛れもない成長の緒(いとぐち)です。

その証拠に、青木先生が『英語とタガログ語ができる』『10年近く住んでいたので、フイリピン人の管理は得意』と売り込めば、ちゃんと『特に良い待遇で』雇ってもらえることを明示した途端、ヒロさんは『大きな失敗をした。大学を卒業しても 何もスキルがない』という自己否定が誤った認知だった旨へ、即座に気づくことが出来ました。

さらに『タガログ語と英語が よくできることは スキルですよね。』という客観的な自己理解を源として、『スキルさえあれば 年齢なんか あまり関係ない。』という健やかな自己承認の礎を築き、とうとう『今一度、自分の将来をより良くしたい』とご自分の多様性にピッタリ沿った「特別な」自己投資の決意へ、到ることが出来たのです。

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「みんなと同じ」枠の中で生い育った親御さんがたは、お子さんがツッコミどころ満載の、しかしご自分なりに真剣な皮算用を口にした途端、遺憾ながら「そんなの、おまえには無理」と頭ごなしに否定し、自己理解自己承認自己投資という成長の源・礎・標をスポイルなさってしまう例が、ネットの渉猟に限っても彼方此方で散見されます。

されど生来抱える五感や認知の凸凹ゆえ、設定上「みんなと同じ」がどうしても無理ゲーになってしまう彼らにとっては、誰に促されることもなく自発的に『将来を より良くしたい』という自由意志を持てた事実そのものが、紛れもない成長の緒なのです。

どうかどうかお子さんを大切に思うお気持ちを、失敗を忌避しないご覚悟謹厳な報告・連絡・相談へ振り向けて戴き、多様性発達者にとって貴重な自由意志の発露という成長の緒を、お一人でも多くの親御さんが掴み損ねぬよう蔭ながら祈念しております。

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