その『励ます力』を繋ぐ御縁に接しつつ私が抱き続けていた疑問は、お子さんがひきこもりへ到り長期に渉って継続してしまうご家庭と、すったもんだがありつつも再び通うべき所へ通い続けられるご家庭を、分かつ決め手は一体なにか?ということです。
ひきこもりのハイリスクを抱える我が娘への対処を学ばせて戴く、との必用も無論ありましたが、そもそもは私自身の好奇心が喚起して止まない疑義。そして当事者さんへの敬意と仁愛が主導するSense of Wonder の俯瞰を広めるにつれ、ひきこもりに陥るか否かを分かつのはお子さんが抱える障害特性の軽重より、むしろお子さんを取り巻いていた育ちの環境=家庭の文化が累積してきた日常である旨、徐々に拝察されて参りました。
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2019-01-05
そこそこ できれば それで良い。山田
『「ラックを組み立てられるように なりたいという気持ちはわかるよ。」「そして、組み立てられるように なるから心配ない。」「でも、今1番大切なことは、君しか できないことを探すことなんだ。」
「ラックを組み立てることよりも、束になった蚊取り線香を分離することよりも、君しか できないことを作り上げていく方が よっぽど大切なことなんだよ。」「そちらの方に気持ちを集中させてほしいんだ。」
こんなことは今に始まったことではなく、この1年間 何100回と青木さんやスタッフから聞いていることです。少しは言っていることが わかりかけました。
しかし、僕は決断しないといけないんだと、今回 思わさせられました。小さな事にこだわりすぎて、もっと大切なことを忘れている。
だから、できないことは、万歳しちゃって、だれかに頼む。
そう決めました。
できないことを やれるようにもなりたいけれど、今は自分にしか できないことを探して、それに集中して実力をつけたいと考え方を改めました。
できないことは、そこそこ できるようになれば それで良いやと思うようになりました。そう思えるようになったら、随分と気持ちが楽になった。』
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2019-01-06
できないことは手伝ってもらいましょう。山田
『僕は自分で服を選べない。僕が良いなと思って選んだ服は、あとで見返すと、みんな おかしなデザインや、奇抜な色ばかり。
だから ここはスタッフに全部 お任せした。コーディネートをしてもらった ということです。
「私と青木さんだけで選ぶのは不安でしょ。」「見る目が たくさんあればあるほど、信じられるでしょ。」そう言って、その時、時間が空いていたスタッフを全員 モールに呼び寄せた。
全員で4人のスタッフが僕の服を選ぶ。その光景を見たモールのスタッフが僕に聞いた。「お客様、あなたは日本の富豪ですか」と。
それが僕には おかしくて、おかしくて、笑ってしまった。』
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「自信が無いから、ひきこもるしか無い。」
当事者の皆さんは一様に、社会から物理的に距離を置いた理由を、そう述べます。
すると親御さんも支援の専門家も、ご自分の五感や認知だけを鑑みて「失敗体験を上回る成功体験があれば自信がつくはず」とお考えになってしまうケースが続出する。されど生来の五感や認知に凸凹を抱えるゆえ「みんなと同じ」育ちが叶わなかった(すなわち発達障害と診断された)当事者さんご自身の五感や認知に寄り添うと、彼らにとっては「失敗体験を上回る成功体験があれば…」との設定こそ、まず無理ゲーだと分かってきます。
そして当事者さんご自身の感情や認知へ一層近く接してみると、実は彼らの謂う自信とは「他者を信じ頼みにする」拠り所となる自己承認である旨が、次第に分かってくる。
山田さんの場合も、『成長の源は成功ジャナクテ自己理解』と題した記事でコメントさせて戴いたように、お母様の側は息子さんの生まれ持った多様性を「個性」として受容し、その成長を心から待ち設けておられました。さりながら山田さん本人の心は、小学生の頃から「みんなと同じ」育ちが叶わなかった自分に疎外感を抱き続け、『僕は出来損ないの人間なんだから』他者を信じ頼みにする資格は無いと自己を卑下し続けてきた。
親御さんが我が子の凸凹を受容し成長を信じて来られた「心づもり」でも、お子さん自身の心に『そこそこ できれば』『できないことは手伝ってもら』えば 『それで良い』との自己承認を育む術は、遺憾ながら工夫し得なかった顛末を表象しているのが、ひきこもりという日常。家庭を主導する「親の心」に叶った上から目線のトップダウンではなく「子の心」に沿ったボトムアップの「文化」に逆転させる覚悟を据えて戴かねば、辛辣な物言い恐縮ながら回復の基礎さえ覚束ないと申し上げざるを得ないのです。
【拙ブログの関連記事】『“合理的配慮”てコレやがな!』 『ひきこもらせない文化』
>> 前篇『成長の源は成功ジャナクテ自己理解』を読む
>> 続篇『成長の標は成功ジャナクテ自己投資』を読む
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